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和食でシャンパーニュ? [そとごはん、そとワイン]

 これは今からちょっと前の話です。


 年末に忘年会をしようと誘われていたのに、残念ながら行けず仕舞いだった都内某所の和食とワインのお店、Oへどうしても1度行ってみたくって、忙しい友人に無理を云って付き合ってもらった。

 前回行った別の友人の話だと、美味しい和食で違和感なくワインが楽しめる、とても感じの良いお店だったとのこと。そして、何よりここには僕が1度飲んで即虜になってしまったサントーバン、ユベール・ラミーがリストにあるのだと云う[ハートたち(複数ハート)]

 それでも、実を云うと僕はワインと生魚や生醤油との組み合わせには元よりずっと懐疑的で、懐石など伝統的なスタイルの和食にわざわざワインを合わせる必要はないと考えているタイプ。今ひとつ、本当に和食とワインがマッチするのか信じられないのデスよ。

 はてさて、この日はどうなることやら。
 だって、今シャンパーニュの栓を抜いて貰ったばかりの僕らの目の前に供されたのは、いきなり海ぶどうの酢の物とイカの塩辛なんだもん(^^;。

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 友人の馴染みのお店なので、何か迷惑が掛かるといけないので名前は出さない。
 場所は都内でも有数の繁華街。それでもメインの大きな通りからは幾らか歩く。あれ~、道を間違えたかなぁ、この先はもうお店の類は見あたらなくなっちゃう、なんて不安になるくらいに、周りは人の往来が賑やかな商業ビル群の喧噪から離れて静かなところ。一軒だけポツンと、あまり目立たない佇まいのお店で、一見さんはちょっと入りにくい雰囲気がするかなぁ。

 暖簾をくぐって店内に入ると、友人は既に到着済み。この日はとても寒くてあまり天気も良くなかった所為か、テーブル席にも空きはあったけど、お店のご主人が陣取る厨房の前に配されたカウンターへ。

 席に着くと、先ずはこれをと、食前酒に自家製の梅酒と、丸々ふっくらとした見事な紀州の梅干しがやってきた。このお店は基本的にメニューがなく、全ておまかせのコースのみなのだ。梅酒を飲むのは随分と久し振りだったけど、優しい甘みと穏やかな酸が心地良い。初めてのお店だから少々畏まっていた僕も、この1杯でほっと一息吐けた。

 友人がシャンパーニュ、パトリス・マルク(PATRICE MARC)のキュペ・ノワール・エ・ブランNVを選び、これで乾杯。現代アート風の人体像が描かれている、面白いエチケット。この絵が、僕にはマティスの『ブルーヌード』のように思えたので友人にそう話すと、カウンターの内側から菜箸を持ったまま顔を上げたご主人が「おお、アンリですね」と愉快そうに笑った。

 そして、ここで出されたのが冒頭の2品。いきなり海草類の酢の物と魚介類のわた合えと云う、おおよそシャンパーニュに合わなそうなこれらの小鉢を目の前にして、僕は内心「あちゃ~~~」と声に出して顔をしかめたくなる様な思いだった。どうしたって、これは日本酒の“アテ”だよねぇ(苦笑)


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 仕方ない。
 今日はこんなことも含めて、和食とワインで愉しもうとこの店にやって来たのだから。多少の相性の悪さは自己責任ってコトで・・・、なんて事を考えつつ、酢の物を先に全て頂いてから、塩辛に手をつけた。柚子の香りが爽やかで、イカは普通にお刺身を食べている様に新鮮で甘い。コクはあるけど、ワタのクセは強くは主張せず、さっぱりと幾らでも食べられそうな美味しいものだった。

 それでもイカの塩辛だもん、シャンパーニュとはねぇ・・・と思いつつ、物は試しとパトリス・マルクのグラスに口をつけてみると・・・。

 あれれっ???、ちっともイヤな味がしないんですけど・・・(^^;。

 何度試しても変わらない。
 すっごく不思議に思えて、不躾な僕はご主人に対し、「全くワインに障らないんですが、何か特別な工夫をされてらっしゃるんですか?」と、ついつい気軽に尋ねてしまった。

 ご主人はニコニコしながらこう仰った。
 「なんにも特別な事はしていません。丁寧に正しく作ってやれば、こう云う塩辛になるんです。ただ、最近はこう云う仕事をしない店や職人が増えておりますね」。

 僕は塩辛と、このご主人との会話で、すっかり嬉しくなってしまった。ああ、良いお店に連れて来て貰ったなぁ、と。こう云う人が作ってくれる料理は間違いが無いものね。


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 「ウチに来たらこれを食べて頂かないと」と、次に出されたのがフォアグラ大根。これがここの名物料理なんだそうだ。

 この組み合わせって、以前にフレンチのお店でも食べたことがあるけど、その時は大根もソテーしてあって、たしか、バルサミコを煮詰めた甘みのあるソースが使われていた。

 この日は薄味の出汁で焚いたブロッコリーと大根の上にフォアグラと鴨肉。
 とても優しい上品な味つけで、主役たちは勿論のこと、野菜がとても美味しい。行儀が悪いけど、ハッキリ云っておかわりしたかった。こんな量じゃ足りません!(笑)。


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 ここで、2本目のワインをお願いする。
 頂いたのは、当然にユベール・ラミーの黒留め・・・もとい"Clos de Meix"(笑)の2005年。

 初めて飲んだのは2002年物で、含むと口の中がくすぐられる様な、ぽってりとした味わいが濃厚なキスを思いださせるような(^^;、まさに官能的と云っても差し支えないワインだった。この2005年はまたそれとは違ったキャラクターのワインだったけど、美味しい白は熟成させてもすぐに飲んでも美味しいね、とは友人の云った言葉。

 うん、確かに[ぴかぴか(新しい)]


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 続いては、ゴボウなどいろんな野菜を鳥のスープで煮込んだ椀物と、平目の縁側や小鰭など一口サイズのお寿司が幾つも目の前へ。

 「おなかの埋まり具合はどうですか?」。
 目の前のご主人がこちらの様子を伺いながら、次々と料理を用意して下さる。

 友人の話だと、物足りなければまだまだ色々作って貰えるんだよ、だって。いや、ここまでだって結構食べてるってば(^^。


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 〆は生海苔と帆立の貝柱、枝豆のまぜごはんに香の物、シジミの赤だし。

 他のお客さんが全て帰ってしまったので、そこからはご主人も僕らと一緒になってワインのグラスを傾ける。
 最近ご自身で気に入っていると云う、オーストラリアの赤(たしかメルローだったかな)をご馳走して頂いた。


 久し振りに、ちゃんとした職人さんが真摯に作る美味しい和食を堪能した気分で、すこぶる機嫌良く家路に付く。
 和食でもシャンパーニュやワインがこんなにも楽しめるんだと思い知らされて、大満足な一日。
 


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