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古民家と花菖蒲~みその公園横溝屋敷 [散歩道の景色]

みその公園_top.JPG

 新横浜駅のすぐ目の前を走る大きな道路、環状2号線を東へ約10分程クルマで進むと、トレッサ横浜(横浜市港北区師岡町)と云う、出来てからまだ数年(2008年3月全面開業)しか経っていない新しい商業施設が道路の両脇南北に現れます。ここは元々、自動車メーカー・トヨタの物流拠点が在った場所で、広い敷地に納車前の真新しい自動車がズラリと大量に一時保管されていたモーター・プールでした。そのトレッサ横浜の南棟のすぐそばには、ここって本当に横浜市?と目を疑いたくなるくらいに広大でのどかな田園風景の丘陵緑地、獅子ヶ谷市民の森が広がります。その入り口とも云える場所に、昭和63年に市指定文化財に認定された19世紀中頃の農家が古(いにしえ)の姿そのままに残されていて、横浜市農村生活館・みその公園横溝屋敷として公開されているのです。そして、あまりたくさんではない様ですが、ここにも花菖蒲(ハナショウブ)が植えられていると聞いて写真を撮りに行って来ました。


◆みその公園横溝屋敷
http://www.yokomizoyashiki.net/yokomizo.html





 この場所は僕の住む場所から結構近い所なのですが、環状2号へ出る、もしくは東急東横線の綱島方面への抜け道として使うくらいでクルマで通り抜けるだけ。市民の森があることは知っていましたが、その近辺でさえ歩いたことなどまるでない場所でした。トレッサ横浜が出来てから、有隣堂と云う横浜では一番に名の通った書店がテナントで入った為に時々立ち寄る様になったのですが、そこからほんの数分、ちょっと歩いて裏手にまわると、世界が一変します。「のどか」と云う言葉を遙か通り越して、ここは一体どこなんだろう?・・・と絶句してしまうくらいの田園風景が広がるのです。すぐ東には京浜工業地帯も控えて交通量も多く、大型車両がばんばん行き交う環状2号線のすぐ脇に、こんなに何も無い田舎の光景が隠されているとは。僕も初めて出掛けた時にはかなり驚かされました。

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 トレッサ横浜の南棟1階にある郵便局脇の出口から徒歩で5分ほど行くと、茅葺きの、なかなかに立派な門が眼前に現れます(※↑ この写真は昨年7月撮影です。入り口の左手は水田)。時代劇に出て来る庄屋さんのお宅風の構えでしょ?(^^。

横溝屋敷_02.JPG

 ここが“みその公園横溝屋敷”。横浜市農村生活館として一般に無料で公開されている施設です。

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 およそ150年前、ちょうど横浜が開港した時期に建てられた農村住居。例えば横浜市の公園では、三渓園などにも古民家が在って公開されていますが、あれは移築されたもの。こちらは実際にこの地に建てられて、この地で人が生活していた家で、後に昭和になってから市に譲渡された物です。

 手前の建物は納屋(収穫物や農耕具をしまっていただろう倉庫みたいなもの)なんですが、屋根部分の形状が面白いなぁ。
 

横溝屋敷_04.JPG 横溝屋敷_06.JPG

 ここは上の写真の納屋の入り口前。実際に古い農耕具が保管、展示されてます。ただ、江戸時代の農村風俗をお勉強する分には良いのでしょうが、どうしたって見た目は地味~なもんです。訪れる人もさすがにまばら(^^;。


横溝屋敷_03.JPG

 もちろん内部も見学可能ですが、この日の僕の目当てはあくまで花菖蒲なので、ご紹介は建物の外観だけサックリと(^^ゞ。


★ ★


 花菖蒲は建物の外、道路に沿った部分がおよそ二間分(3.6m)程度の幅で3枚の水田になっているのですが、その2枚に植えられています。昔はきっと全部が稲作用だったんでしょうね。見渡す限り一面・・・なんて規模ではありませんが(^^;、小さい乍らもなかなかのもの。特に品種別に分けられているのでなく、いろんな色形をした花菖蒲が一緒くたに植えられている様です。よって、品種名の書かれた札なども一切立てられていません。

みその公園花菖蒲_02.JPG

 公園の花とは云うものの、結構無造作で、田んぼの隣で勝手に増えちゃいました、みたいな雰囲気(^^。これはこれで、ごく有り触れた昔の農村の自然な光景と云った趣が有って良いのかも。


みその公園花菖蒲_01.JPG

 この淡い薄紫色は、僕がいつも出掛ける家の近所の公園には無い品種です。優しい色合いで落ち着いた雰囲気がして、好きだなぁ。


みその公園花菖蒲_03.JPG

 このピンクの品種は早咲きだったのかな?。盛りは過ぎてしまっている様で、残念ながらあまり良いコンディションのものは見当たらず。この品種も家の近所には無い色。


みその公園花菖蒲_06.JPG

 白地に明るい紫の縁取りが爽やかな夏の着物生地みたい。華やかな品種。


みその公園花菖蒲_07.JPG

 双子の様にそっくり二輪並んだ白い花は高貴なイメージ。でも、左の花には小さなハエが一匹。邪魔だなぁ、早くどこかへ飛び立って消えてくれないかなぁとしばらく待ってたのに、居心地が好いのか(?)、ずっとご滞在のままでした(^^;。


みその公園花菖蒲_05.JPG

 とても艶やかで美しい紫色の花。

 同じ仲間なので当然にハナショウブとカキツバタとはとてもよく似ていますから、やっぱり僕は尾形光琳や酒井抱一の「燕子花図屏風」を思い出してしまうのです。でも、あんなふうに紺に近いまで青い藍色の品種って、実際のカキツバタに在るのかな?。

※抱一の描く燕子花の色に興味がお有りでしたら、ご参照はこちら → http://ilsale-diary.blog.so-net.ne.jp/2009-05-12

鈴木其一_花菖蒲に蛾図.jpg
◆鈴木其一 / 「花菖蒲に蛾」 (※作品の一部分を抜粋) 絹本着色、米国 バーク・コレクション

 カキツバタじゃなくて、花菖蒲そのものを描いている琳派の絵はないのかな?と、家にある琳派関連の書籍を幾つか広げてみたところ、抱一作品には見当たらなかったけど、弟子の鈴木其一が描いてました。如何にも其一らしい、まるでボタニカル・アートの様な精細な筆致で。

 僕がこの其一の絵を見つけてきたのは「もっと知りたい 酒井抱一」(玉蟲敏子著 東京美術刊)の中から。著者である、抱一研究の第一人者・玉蟲先生の解説だと、其一の時代は花菖蒲の品種改良が進んでいて、当時既に園芸種として江戸の人々に愛好されていたんだとか。それ故、安藤広重が江戸名所百景に取り上げて、今も花菖蒲の名所として知られる堀切菖蒲園は、この時期、多くの花菖蒲好きでたいそう賑わったそうな。堀切も、一度は花の盛りに訪ねてみたい場所なんですよねぇ。

みその公園花菖蒲_04.JPG

 まるっきりそのまんまじゃないけれど、この赤紫色した霜降りのやつなんかは、其一の絵の花菖蒲に結構近い雰囲気があると思いませんか?。




もっと知りたい酒井抱一―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

もっと知りたい酒井抱一―生涯と作品 (アート・ビギナーズ・コレクション)

  • 作者: 玉蟲 敏子
  • 出版社/メーカー: 東京美術
  • 発売日: 2008/09
  • メディア: 単行本



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