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アリスティード・マイヨール [ART]

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 観て来た記憶が薄れてしまう前に、そろそろ国立新美術館で現在行われているオルセー美術館展2010“ポスト印象派”について何か書いておこうかと思って、図録やオルセーに関連する本を眺め直していたら、何故か、今回は唐突にこの人の事でblogを書いてみたくなってしまった。19世紀にフランスで生まれた彫刻家・アリスティード・マイヨール(Aristide Maillol : 1861~1944)。僕はこの人が作った女性像の滑らかで柔らかなフォルムが大好きなんだなぁ。

 でも、今回のオルセー美術館展にはマイヨールの作品は1つも来てないんだけどね(^^ゞ。

(写真上、アリスティード・マイヨール / 『地中海』 1905年作、オルセー美術館蔵)
※ 尚、この写真は「別冊太陽 パリ オルセー美術館」(平凡社)の139Pより引用しています




 マイヨールの作った彫像には彼独特の味わいが有る。ギリシャやルネッサンスを崇拝する古典主義の、過剰なまでの理想美や肉体表現とは少々距離を置いた、シンプルなフォルム。とは云え、古典からそう遠く離れている、と云うわけでもない。

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『裸のフローラ』(1911) 山梨県立美術館・文学館の庭園にて撮影


 元々画家を目指していたマイヨールは、ピュヴィ・ド・シャヴァンヌの作品に憧れ、彼の絵を模写し続けていた。

 若き日のイタリア滞在でフレスコ画に感銘を受けたシャヴァンヌの作風は、題材的には古典的でありながらも、様式としての古典主義やロマン派など、当時のアカデミスム絵画とはやや一線を画すものだった。

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ピュヴィ・ド・シャヴァンヌ / 『海辺の娘たち』(1878)

 明暗を付けず、遠近法を意識させない平明な画面。目に見える光景ばかりに囚われない象徴性と、夢幻的で詩情を感じさせる画題。簡略化されたシンプルな描線とフォルム。シャヴァンヌの作風はマイヨールだけでなく、多くの若い画家たちに多大なる影響を与えてゆく。

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写真をクリックすると、それぞれこれより少し(^^;大きな画像が別ウインドウで開きます

 マイヨール作品の女性像に漂うその作風は、やはりどこかシャヴァンヌの絵画に登場する女性と共通するものを僕に感じさせる。


 やがてマイヨールは、同じくシャヴァンヌを賞賛してたポール・ゴーガンの作品と出会う。それは1889年、カフェ・ヴォルビニで行われた“綜合主義展”でのことだった。ゴーガンと面識を得た彼は、自身も綜合主義へと向かい、同じくゴーガンから啓示を受けていた若い画家グループ、ドニやヴュイヤールなどのナビ派の面々と合流するのだ。


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『日傘の女』(1889-92) オルセー美術館蔵

 しっかりとしたデッサン力に加え、この甘く美しい色彩感覚。シャヴァンヌのロマンティシズムに、ドガの線、彩色のセンスはまるでモネの様だ、などと云ったらあまりに誉め過ぎだろうか。しかし、このまま絵画の道を突き進んでいれば、マイヨールは画家としても間違いなく大成していたことだろう。

 しかし、将来を嘱望されたこの画家を襲った現実は、あまりに冷酷なものだった。マイヨールは絵画と平行して行っていたタピストリー制作で目を痛め、働き盛りの30歳代後半にして絵画を断念せざるを得なくなる。

 この挫折が、彫刻家・マイヨールを誕生させるのだ。


★ ★


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『着衣のポモナ: Pomone drapée』(1921) オルセー美術館蔵

 僕が初めてマイヨールに心奪われたのは、オルセー美術館で訪れたナビ派の展示室でのこと。
 
 その時の僕は、まだナビ派の画家たちの事をほとんど知らなかった。ただ、そんな僕の目にも明らかにジャポニスムの影響を感じさせるピエール・ボナールの印象深い傑作、『黄昏-クロッケーの試合』(1892 ※上記写真後方)が目に着いて、それをじっくりと眺めていたら、すぐ隣にポツンと一体だけ女性のブロンズ像が置かれているのに気付いた。それがマイヨールの『着衣のポモナ』だったのだ。

 ポモナは森のニンフ(精霊)であり豊饒と繁栄の女神。両の手には彼女が育てたリンゴを持っている。美しいポモナを我がものにしようと、多くの神々が入れ替わり立ち替わり彼女に求婚するものの、果樹園での暮らしに満足しているポモナはそれらを一切退け、聞く耳を持たない。しかし、最後に四季を司る神であるウェルトゥムヌスが老婆に変身してポモナへ近づき、彼女への溢れる思いを伝えて二人は結ばれるのだ。

 絶世の美女と云うほどでもなく、類無き理想のプロポーションと云うわけでもなく。それなのに、離れがたい不思議な魅力を持った女性像。首から肩へと続く美しいライン。そっと手を触れたくなる様な、滑らかなブロンズの肌。同時代の巨匠ロダンやエコール・デ・ボザール(国立美術学校)以来の友人ブールデルの様に、作品に激しいドラマ性は持たせずに、ただ、そっと静かに詩情を湛えるその顔立ち。


★ ★ ★


 展示替えもあるからいつも必ず会えるわけじゃないけど、上野・西洋美術館の常設室にもマイヨールの作品が収蔵されている。

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『“調和”のための習作』(1940-41) 国立西洋美術館蔵

 これは07年の撮影で、まだ持ってたカメラがISO400止まりと室内撮りに弱い機種だったから、画面は暗いしノイズだらけ(><)。次回出掛けた時に展示されていれば撮り直して来たいなぁ。


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『夜』(1902-09) 国立西洋美術館蔵

 こちらは、彼のナビ派の仲間であるモーリス・ドニの画風を思わせるプロポーション。その髪型のせいもあるのだろう、『ミューズたち』(※現在、国立新美術館で開催中のオルセー美術館展2010にて公開中)など、ドニの妻であるマルトがモデルになった諸作を思い起こす作品だ。因みに、ドニもシャヴァンヌの影響を大きく受けている画家の一人だ。

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 俯いていて顔が見えないのが、僕には少々残念なんだけどね(^^。

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TaekoLovesParis

 彫刻家で一番好きなのは、ロココっぽい優美なカルポー。二番目はマイヨールなので、この記事はわくわくして読みました。パリの「ロダン美術館」から、そう遠くない所に「マイヨール美術館」があります。マイヨールのモデルだった女性が作った美術館なので、多分、自分がモデルの立像の彫刻ばかりが、ずらっと並んでいました。山梨県立の「フローラ」のタイプでした。私は、座っているシリーズが、優雅なのに生命力があって好きです。顔の見えている「地中海」が好きです。

 マイヨールの「日傘の女」、からだの曲線がきれいですね。色彩の美しさを彫刻には持っていけないのが残念な感じ。マイヨール美術館に、マイヨールの絵があったか覚えてないのだけど、マティスの絵、後半の切り絵っぽいのやデッサンだったかしら?数点あったので、交流があったんだなーと思いました。

一般に彫刻は、実物と写真ではだいぶ違いますね。でもyk2さんの写真は、斜めから撮ってらっしゃるせいか、立体感があって、質感も伝わってきました。
by TaekoLovesParis (2010-07-20 00:09) 

pistacci

『日傘の女』色合い、表情、好きですね~。
当時のスカートのラインを考慮しても、この背中のラインが気になります。
たしか、逆S字ラインが美しいと、どこかで以前教わった気がします。

夜目・遠目・傘の内・・・古から女性の顔が見えないところが、いいみたいですよ。

・・・ところで庭園美術館は、まだですかぁ~~(笑)
by pistacci (2010-07-20 00:32) 

chercher

マイヨールの「地中海」、やわらかい曲線美にそっと触れてみたく
なりました(*^^*)
心を奪われる作品との出会いってありますよね。
私も彫像が大好きで、シャルル・デスピオの作品とであったときに心惹かれました♡
by chercher (2010-07-21 11:12) 

yk2

ご訪問&nice!頂き、ありがとうございます。
今回はちょっと順序逆でご返信させて頂いちゃいますが、あしからず、です(^^ゞ。

◆chercherさん :

僕は別段彫刻に詳しいワケでもなくって、マイヨールはそもそもがナヴィ派と云う好きな画派の一員だったからこそ、特別な意識を持って作品を見ていたに過ぎないんです。だから、他の彫刻家とかもあまり知らないんですね。

で、シャルル・デスビオも早速調べてみました。サイトがあったので(http://www.charles-despiau.com/index.htm)見てみたら、ロダンの弟子なんですね!。それも、作風は異なるけれど、静的で、師匠よりマイヨールの作品世界に近い気がしました。ポンペイの壁画が彫刻になったみたい。結構好きな作風です。教えて下さってありがとうございます(^^。


◆pistaさん :

そうなんですよね~。女性の体やスカートのラインがなだらかに流れる様に描かれていて、綺麗なんですよね。S字ラインは、まっすぐスッと立たせるよりも、軽く腰をひねって、片膝を少し曲げた方が女性が美しく見える、ってポーズですね。代表的なのはアングルの『泉』。ググるとすぐに画像が見られると思いますよ。

>夜目・遠目・傘の内・・・古から女性の顔が見えないところが、いいみたい

昔なら仮面舞踏会、僕らの時代はスキー場のゴーグルの下ってトコでしょうか?(^^;。
あ、netもそうかな?。男女ともお互い様ですが(笑)。

庭園美術館は、毎日暑いのでダレてますから、もう少し待ってて下さい(笑)。
そう云えば、今度の日曜美術館のアートシーンのコーナー(最後の15分)で有元さんの話題に触れるようですね。

by yk2 (2010-07-21 23:13) 

yk2

◆taekoねーさん :

マイヨール美術館!。
さすが、taekoねーさんは行ってらっしゃるのですね。

僕は前々回パリに行った(本文のポモナを撮って来た)時に、やっとマイヨールを意識しはじめたくらいなので、その時は考えも及ばなかったのですが、08年に『パリの100年展』って、taekoさんもご覧になってる展覧会が都美術館あったでしょ?。あれにマイヨールがポモナも含め、数点出てたんですよね。
で、あの時パリの市街模型が出てて、出品してる美術館がボタンを押すとランプが光るってのが有ったんだけど、覚えてます?。
僕、あれでマイヨール美術館がデ・プレのすぐそばに在ったと知って落胆しちゃったんです。さんざん一人でウロウロ歩き回ってた場所だったのに~!って・・・ガッカリ(苦笑)。

今は、前回パリへ行った時よりも大分美術知識がついて来てるので、街の歩き方も違うだろうし、お金が余ってれば、2週間くらい掛けてゆっくりフランス美術三昧な旅がしたいなぁ・・・とつくづく思うのでした。
by yk2 (2010-07-21 23:40) 

TaekoLovesParis

yk2さん、途中の開放的な部屋(空間)の大きな机の上にのっていたパリの模型でしょ、ボタンを押すと光るの、鉄道模型と同じって思いました。でも、マイヨール美術館があったのは覚えてない。。。パリは小さくても内容が充実した美術館がたくさんあります。2週間かけたら、かなり、いろいろ見れますね。パリだけでなく、ちょっと足を延ばしてマドリッドのプラド美術館とティッセン・ボルミッサ美術館もいいですよ。
by TaekoLovesParis (2010-07-22 01:00) 

baby_pink

こんばんは^^

私は全くマイヨールさんの事に無知なのですが…
yk2さん、おっしゃるように、女性の滑らかで柔らかなフォルムが最高に美しいですね。
同じ、女性として、女はこうでなくちゃなぁ。。と思ってしまいました(微笑^^*)

特に、「裸のフローラ」と「日傘の女」作品が好きです✿*
私も、あんな美しい色合いのドレス、一度でいいから着てみたいです~
by baby_pink (2010-07-22 19:06) 

hatsu

あ、pinkちゃん^^
私も『日傘の女』のような美しい色合いのドレス、着てみたいです。
似合うかどうかは別として(笑)、憧れますね~。

『着衣のポモナ』は、力強い美しさですね。
そして『夜』、俯いていて顔が見えないのが私も残念^^
by hatsu (2010-07-24 07:07) 

yk2

nice!&コメントありがとうございます。

◆taekoねーさん :

そうそう、2階へ上がる階段の手前のところに展示されていた模型です。でも、鉄道模型って、そこまで大きくなかったような・・・(笑)。あの時、あの部屋は作品が何も展示されてなかったから、写真撮っても良かったんですよ。探したら、数枚あんなもんも撮ってました(^^;。エッフェル塔の脚部も大きな模型で再現されてたんですよね。

>ちょっと足を延ばしてマドリッドのプラド美術館と

そっちに行く前に、イタリアもまだ全然観られてないんですから、大変ですよ(苦笑)。ウフィッツィでさえ、前に観たのはもう17、8年も前だもんなぁ。旅行の仕方、間違えてたなぁ・・・(泣)。


◆baby_pinkさま :

夏場は、それもこうまで暑いと、男性だって薄着です。体型のフォルムを気にしなきゃいけないのは女性ばかりじゃありませんよ~(苦笑)。まぁ、でも女性は常に美を真剣に求めておられるでしょうから、プロポーズの殺到するポモナを目標にするのは正しい方向性だと思います(^^;。なによりマイヨールの作品は線が優しいですからね~。


◆hatsuさん :

hatsuさんも『日傘の女』のドレスですか~。こんなの着ちゃったらどこ行っちゃいます?。やっぱり山手十番館とかかなぁ、ってベタ過ぎるかな?(笑)。

>似合うかどうかは別として(笑)、憧れますね~

だんなさまにねだってみてください(笑)。
hatsuさんのご主人だったら、hatsuさん可愛さでな~んでも着せてくれそうな気がしますよ~(笑)。
by yk2 (2010-07-25 22:37) 

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