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彫刻のあるところ / 横浜・ジョイナスの森 [ART]

2011年11月12日(土曜日)
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 2回続きで、今回も舟越保武作のブロンズ彫刻をご紹介しちゃいますね。この女性像ね、横浜に在るんですが、もしかしたらあんまり知られていない?、意外に思える場所に常設展示してあるんです。そこはね、美術館の庭でも、公園でもない場所なんだなぁ(^^。



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 今年の秋は週末になると雨という天気が続いていましたが、この日は久し振りに気持ち好く晴れてくれて青空となった土曜日。

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 僕がやって来たのは、横浜駅西口すぐのとある商業テナントビルの屋上です。フェンス越しに見下ろせば、そこは小学生の頃から通学に使っていたバス・ターミナルの在る見慣れた街の風景。(この日装着していたレンズは60mm単焦点なので、画角に入る景色が狭くてスミマセン・・・汗)


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 その場所には芝が敷かれ、木が植えられて、まるで公園の様に整備されているのです。こうして見ると、ちょっとした緑のオアシスと云った風情でしょ?。でもこれが地上9階。ビルの屋上の光景なんです(^^。

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 気温12℃と真冬並に寒かった昨日と違って、この日はポカポカと暖かな陽気。芝の上にシートを引いて、小さな赤ちゃんや子供さん連れのママさんたちが思い思いに寛いでいたりします。

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 そろそろ勿体ぶらずに場所を明らかにしましょうね(^^。

 ここは、ビル自体の存在は横浜市民にはお馴染みの相鉄ジョイナスの屋上にある、ジョイナスの森という場所なんです。
※そもそもこのエントリのタイトル読めば、なんてコトない、書いてあるし(^^;。


 実はね、ここが意外な彫刻鑑賞の穴場なんですよ。さすがに作品数は多くないんですが、それでも、皆が国公立美術館に作品が収蔵されている様な著名な大家の彫刻ばかり。冒頭に載せた写真の舟越作品も、この場所に在るのです。この日は、それらの彫刻たちを写真に収めたくってこの場所へやって来た、というわけなのです。



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◆『道標・鳩』(1973-79) / 柳原義達

 柳原義達(やなぎはら・よしたつ)の『道標』は、府中市美術館の在る府中の森公園にシリーズの『鴉』(からす)が設置されています(参照画像はこちら→ http://ilsale-diary.blog.so-net.ne.jp/2009-12-14)。それは府中の森劇場側入り口のすぐそばに在って、広い公園のまさに道標の様な趣。どことなく愛嬌の有る表情とざっくりとしたそのフォルムが印象的だったものですが、こちらはPigeon=鳩。府中のユニークな鴉と較べると、鳩たちのフォルムはややおとなしく写実に近いものを感じますが、尾っぽの羽の表現などはまさに柳原作品のそれですね。

柳原義達_道標・鳩02.jpg

 因みに『道標』のシリーズは同名で違うフォルムをした作品も造られている模様で、2009年に東京都美術館で開催された「日本の美術館名品展」で観た三重県立美術館の『道標・鴉』は府中のそれとは随分印象の違うものでした。

 ところで、今にも口を利きそうなカラスが「道標」ってのは解りやすかったけど、鳩だと、ちょっと、このタイトルはどうなんだろう(^^;。

※ 柳原義達の作品はこちらにも→ http://ilsale-diary.blog.so-net.ne.jp/2008-10-03


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◆『構成』(1955) / マリノ・マリーニ(1901~1980)

 マリノ・マリーニはこの作品で初めてその名を知ったイタリアの彫刻家です。この作品は「騎馬」がテーマ。古代エトルクス彫刻に見られるプリミティヴで力強い味わいを意識的に踏襲しているんだとか。

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 乗っている人がこんなポーズなのは、馬が暴れて振り落とされる場面なのでしょうか、それとも、戦で敵に討たれた瞬間なのでしょうか。こんなふうに両手を挙げているポーズなものですから、ついつい「うわ~、やられた~」なんて、思いっきりベタな台詞でアフレコ入れてみたりして(^^ゞ。イタリアの古い遺跡から発掘された古代彫刻を見つけた気になって眺めてみれば、歴史好きの僕にはなかなかに面白い空想が広がる作品です(^^。


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◆『ニケ'83』(1983) / 朝倉響子(1925~ ※ )

 いかにも現代的な服装と気取らないくだけたポーズの女性像の作者は、朝倉響子(あさくら・きょうこ)。明治大正の近代彫刻黎明期に活躍し、日本彫刻界の重鎮にして巨匠、そして谷中に在る朝倉彫塑館の主だった朝倉文夫の次女さんなんですね。

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おそらくデニムの類のスリムなシルエットのパンツにクルーネックのプルオーヴァー。そうそう、80年代初めだもの、そんな感じの服装で思い出しますね、例えばSASSONのジーンズだとか、シェトランド・ウールの丸首ニットだとかって着てたもの。アウト・ドア・スタイルのヘビー・デューティなんて流れも有りましたよね。音楽で云うと、ドナルド・フェイゲンの『The Nightfly 』(1982)とかがすご~く巷で流れていた頃に造られた作品なんだなぁ。遙か昔、懐かしい10代の日々(すご~~~く遠い目・・・^^;。


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◆『踊り子』(1983) / ジャコモ・マンズー(1908~1991)

 イタリアの彫刻家、ジャコモ・マンズーについてはほとんど詳しいことは知らないけれど、白金の松岡美術館の1階と2階を結ぶ階段の途中に1点、『衣を脱ぐ』(1981年作、写真右 ※写真をクリックすると600*400ピクセルの拡大画像が別ウインドウで開きます)と云うやや小振りなブロンズが飾ってあるのを知っています。
 

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 前出のマリーニとは同世代に活躍した作家で、イタリア現代彫刻の中核を成す二人と云われ、マリーニが古代プリミティヴに大きな影響を受けているのに対して、マンズーはローマ的であると考えられているそう。作品に添えられている紹介文では彼の作品のそれを「人間臭い表現」と捉え、“踊り子”は彼にとって主要なテーマであったと記しています。

 僕が知っているマンズー作品はたった2点のブロンズですが、そのどちらもが、やや虚ろとも思える眼差しをしています。観る者に、どうしてそんな顔をしてるのかな?、何を思っているんだろうと考えさせると云うことは、命の無い彫刻にストーリーを与えて擬人化させてみせるわけですから、マンズーの作品のそんな部分が「人間臭い」と言い表される所以なのかしらん。ちょっと解説文の解釈が難しいですね(苦笑)。


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 ここジョイナスの森には、こんな巨匠の作品も置いてあるんですよ。

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◆『果実』(1911) / アントワーヌ・ブールデル(1861~1929)

 ジョイナスの森の作品群中では、世界的にも一番に著名な作家だろう19~20世紀フランスの彫刻家を代表する一人、アントワーヌ・ブールデル。ロダンの弟子にして、師と並び立つまでの評価も得ている大巨匠ですね。

 手に持っているのは林檎でしょうか?。この作品『果実』のポーズは彼の友人で、やはりフランス彫刻界の巨匠マイヨールの『ポモナ』を思い出させます(参照画像はこちら→ http://ilsale-diary.blog.so-net.ne.jp/2010-07-19)。また、この女性のほっそりとしたシルエットは、マイヨールもナビ派で画家を目指していた時代に多大な影響を受けた象徴派の画家、ピエール・ピュヴィ・ド・シャヴァンヌの『希望』(オルセー美術館蔵)も同時に連想させるのです。

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参照画像 『希望』 / ピエール・ピュヴィ・ド・シャヴァンヌ

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 ブロンズ像は型さえ残されていれば鋳造出来る物ですから、同じ物がいろいろな場所に展示されていたりして、芸術品の希少性と云う意味での有難味は薄いかも知れませんが、それでもブールデルと云う巨匠の作品が商業テナント・ビルの屋上に、それも余り多くの人に知られる事もなくひっそりと・・・って、ちょっと勿体無いなぁ(^^;。


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◆『水浴の女』(1968) / エミリオ・グレコ(1913~1995)

 こちらはちょっと番外。元々はジョイナスの森に在った作品ですが、同じ相鉄グループの映画館だった相鉄ムービル(僕が子供の頃は、映画館と云えばここでした)が取り壊され、ベイ・シェラトン・ホテルが建設され、完成と同時にその建物前正面に移設されたもの。

 作家のエミリオ・グレコはイタリアのカターニャ出身。彼の作品もやはり松岡美術館に数点が収蔵されていて、僕が彼の名前を知ったのも、松岡美術館でその作品の写真を撮って来ていたから。

グレコ_水浴の女02.jpg 松岡_グレコ水浴の女.jpg

 この『水浴の女』は連作で、松岡美術館にも同名の作品(1964年作、写真右 ※写真をクリックすると600*400ピクセルの拡大画像が別ウインドウで開きます)が在りますが、ポーズは同じものながら、松岡所蔵作品の造形フォルムはやや簡略化されたフォルムが採用されているのに対して、一方のこちらは比較的写実風。女性の身体のフォルムが柔らかであるのに毛髪は線を強調した固いタッチで、その対比が面白い効果となっています。

 それにしても、ブロンズ像に下着をつけさせたままって、全裸よりよっぽど生々しくって、街行く人の前で一人写真を撮っていると、なんだか妙に気恥ずかしかったです(苦笑)。


 そうして、最後にご紹介するのが、この日僕がジョイナスの森へと出掛けたお目当の作品である、舟越保武作のこの彫像。

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◆『茉莉花』(1978) / 舟越保武(1912~2002)

舟越保武_茉莉花04.jpg 舟越保武_茉莉花01.jpg

 舟越さんの作品がジョイナスの森に常設されているのは灯台下暗しでした。ここは、当然の様に彫刻が置いてある美術館でもなければ、いわゆる公園でもないので、「舟越保武 作品 常設 美術館(もしくは公園)」なんて具合にウェブ検索を掛けても見つけにくいんですよね。

 かく云う僕も、ずっと昔にここを何度か訪れていた時には、彫刻になんてほとんど興味が無くって、暫くこの場所の存在さえも忘れていました。彫刻が観られるのだと、改めて気付いたのも割合最近のことで、再訪するまで、小規模ながらこれだけの作品が揃えられているなんて思いもしなかったのです。デパート(正確にはテナント・ビルですが)の屋上みたいなところに・・・ですから、ねぇ(^^ゞ。

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 茉莉花(matsurika=ジャスミン)と題されたこの作品の女性像。その顔立ちや髪型を眺めていると、山梨県立美術館の『花を持つ少女』がそのまま大人の女性になったかの様な姿形に思えて来ます。これ見よがしに派手に咲き誇る事無く、控え目で楚々としていて、それでいて薫り高い白い花。なるほど、云われてみればこの女性の清らかで静謐な表情にイメージがぴったり重なります。

 舟越さんは僅か2歳の時にお母さんを亡くされていて、彼の造った多くの女性像には、顔も思い出せなければ、たった1つの追憶さえも持たない母への思慕が込められているそうなのです。この茉莉花も、そんな作品の内の1つなのでしょうか。


相鉄ジョイナスhttp://www.sotetsu-joinus.com/
 横浜市西区南幸1-5-1



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