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"Je te veux"って云えなくて [いつかの出来事]

雪の日に_02.JPG

 「手術室に入られる時にですね、リラックスして頂くためにお好きな音楽をBGMとしてかけられるんですけど、何かご希望は有りますか?」。いきなりそう尋ねられて、思わず僕は「へっ?」と答えに詰まってしまった。僕は音楽が好きだから、こんな状況でこんな音楽が流れていたら素敵だなぁ~等とは、様々なシーンで考えてみる事は過去にもたくさん有ったけれど、さすがに、自分が手術室に入る際に・・・は思ってもみなかった。そもそも、これまで大きな病気や怪我を殆どした事のない僕が、自分が手術を受ける日が来るだなんて、ゆめゆめ考えた事もなかったから。




 てなコトで、ワタクシゴトではございますが、今年最初の大雪の日、忘れもしない2月8日土曜日の朝、雪ですべって転んで、左手首をポキっと折ってしまいました(>_<)。

 それは出勤の途中での事でした。僕は普段クルマ通勤。ですが、職場までの道のりには、上り下りの大きな坂が有って、大雪が降るといつだってそれはそれは大変です。雪道運転の経験がほとんど無いのに加えて、僕はスタッドレスタイヤを持っていません。ですから、あの日は、迷わずバスと電車を使って仕事へ行こうと、数日前の天気予報を見た時点で決めていました。丁度車検の時期だったこともあって、クルマは前日にディーラーの整備工場へ。今にして思えば、これが今回の事の伏線だったかも・・・。

 あの雪の日の朝、僕の持っている内、雪道に対応出来る唯一の靴(L.L.Beanのメインハンティングシューズ=ガムシューって呼ばれてるヤツのこと)をトランクに入れっぱなしのまま、クルマを車検に出してしまった事に気付きます。「あちゃ~、失敗した~」と思ってみても、今さら後の祭りです。もうずっと長いこと雪が積もった時にしか出番の無い靴なのに、いざと云うその時に無いなんて・・・。仕方無い、もう他の靴を履いて行くしかありません。この時点で若干の不安を感じつつも、慎重に歩けば何とかなるだろうと・・・。

 そんなふうに、予め警戒していたはずなのに、吹雪のように降り続く雪の中、路面に積もったシャーベット状の雪に足を滑らせてバランスを崩し、思わず片手を地面に着けてしまい、全体重が左手首1点に。やってしまった瞬間から、ああ、きっと折れちゃったかも・・・と思わざるを得ない痛み。手首は曲がってしまったままで、まっすぐに伸ばせません。すぐさま腫れて来て、腕時計を外さなくてはいられませんでした。そのまま、病院へ直行。レントゲンを撮って貰っての医師の診断は、「折れちゃってますねぇ。それも、あんまり良い折れ方とは云えません。手首も骨が外れちゃってるし。2週間以内に手術をした方が良いですね。でないと、将来的に手首の動きに痛みや不自由が残るかもしれません。とにかく先ずひっぱって、外れちゃってる手首を腕の骨に乗せ直さないとね。では行きますよ~」。

 「うぎゃああああぁぁぁ。痛い痛い痛い痛いいたいっ!!!!」

 これまでの人生に於いて、過去最高クラスの痛さでした。折った瞬間の衝撃なんて、それこそかわいく思える程の痛さ。「痛い!」って言葉を、一体その場で何度口にしてしまった事でしょうか分からない位に。


★ ★


 そんな経緯で、僕は生まれて初めての入院と、本格的な手術を経験するはめになりました。それも、手首の骨折なのに、どうしてなの???の全身麻酔[がく~(落胆した顔)]。手術経験がほとんど無いので、それはもう、めっちゃ怖いんですけど[もうやだ~(悲しい顔)]


 冒頭の「手術室に入る時に好きな音楽を・・・」の話は、手術の前日、全身麻酔に関する注意事項説明の際、担当のスタッフさんからされたもの。

 はてさて、こんな時、僕は一体何を聴きたいんだろう。正直云って、こちらは初めての手術に不安いっぱい。そんな時に音楽だなんて心の余裕は有りません。でも、かと云って何でも好いとも思えない。ワタクシも、一応音楽好きを自認しておりますもので・・・。

 うう~ん・・・。何が聴きたいかなぁ。
 考え込む僕にスタッフさんが続けます。「ジャズでもなんでも。曲名さえ云って頂ければ、大抵ご用意できますよ」。普段からあまりメジャーじゃないカテゴリーの音楽を愛聴する身としては、果たして本当に用意して貰えるのだろうかとってもあやしいものだとも考えましたが、そうだよね、今はアーティスト本人やオフィシャルでyoutubeとかに演奏をアップする時代だもの。netでどうにか見つけられちゃうんでしょうね、よっぽどマニアックなリクエストでもしない限りは。

 でもね、こんな時、僕が普段聴いてるジャズ系の音楽って、あんまりリラックスするに適さないものが多いんだなぁ。難易度の高いテクニカルな演奏って、往々にして聴く側にもスリルと緊張を強いるもの。お風呂で聴いてたって疲れちゃうくらいなんだから(^^;。

 僕の好きな曲で穏やかなもの。それも、不安な気持ちを和らげてくれる様な、こんなケースに似合う曲って何があるだろう?。出来れば、歌詞に気持ちを無用に引きずられたくないから、インストが好いな。この時とばかりに頭をフル回転させて考えました。

 そうだ、ライル・メイズ"CLOSE TO HOME"(1986年作アルバム『LYLE MAYS』より →http://www.youtube.com/watch?v=7jBFg7lR9ag)なんてどうだろう。ジャケット・フォトの幻想的な光景をそのまま音楽に“写した”様な、音楽による心象風景とも思える様な美しい曲。聴く度に神秘的な心地に誘われる大好きな曲です。でも、これは演奏時間の尺がちょっと長いかなぁ(※実際は6分を超える程度)。メインのテーマに辿り着く前に、とっくに麻酔が効いて寝ちゃうかも(^^;。

 懐かしいウインダム・ヒル・レーベルの創設者であり、ギタリストのウイリアム・アッカーマン"ブリックレイヤー家の美しい娘"(→http://www.youtube.com/watch?v=bM-u0I_AcgI)も牧歌的で悪くない。アコースティック・ギターのアルペジオがなんと優しく響くことだろうと、心が洗われる様な気持ちになります。でも、少し、しみじみとし過ぎちゃうかもなぁ。不安をかき消してくれる様な、もうちょっと元気な曲の方が今回の場合には好いのかもしれない。

 だったら、アントニオ・カルロス・ジョビン"CHILDREN'S GAMES"なんてどうだろう。本家のオリジナル・ヴァージョンよりもナイロン・ストリングスの柔らかい音色の、リー・リトナーのギター(→http://www.youtube.com/watch?v=gmxJ-b4EszY)が軽やかでいいな。

 待てよ、ジョビンのその曲を選ぶんだったら、いっそ、そのジョビンが愛したドビュッシーのピアノ曲はどうだろう。あまりに影響が直接的過ぎる“夢”(→http://www.youtube.com/watch?v=s8bBJF44wYA)でも好いんだけど、少しだけヒネって”レントより遅く”(→http://www.youtube.com/watch?v=lCpjeXZF_-Q)なんかも悪くない。何もジャズだけに拘らなくたっていいんだから。クラシックのピアノ曲なら、ラヴェル”亡き王女のためのパヴァーヌ”(→http://www.youtube.com/watch?v=2oBpojZM1w8)も聴くたびうっとりしちゃうくらいに大好きなメロディ。だけど、やっぱり「亡き」って言葉は今回に於いては縁起が悪いのは否めないね(^^;。

 あ、それならばと閃いた[ひらめき]サティ[exclamation]”Je te veux”(→http://www.youtube.com/watch?v=wbT9DeULzU4)はどうだろう。元気に、明るく華やかな気持ちで手術に臨めそう。そうだ、そうだ、この曲にしよう![わーい(嬉しい顔)]

 「決めました。エリック・サティの曲で、邦題が・・・」

 ここまでなんの意識もせずに口に出したのですが、邦題を思い出した時点で、僕は思いとどまってしまったのです。だってね、すぐ目の前にいるスタッフさん、まだ若くてけっこう綺麗で、物腰は柔らかだし、笑顔がとても素敵な女性です[揺れるハート]。だからね、なんかね、『おまえが欲しい』って邦題のタイトル思い出したら急に口に出来なくなっちゃって・・・(苦笑)。

 あれやこれやと折角色々考えたと云うのに、そんなコトで結局僕が選んだのはジムノペディNo.1(→http://www.youtube.com/watch?v=dtLHiou7anE)。エリック・サティの曲で・・・って、云っちゃった後だったから、もういいや・・・と(^^;。


★ ★ ★


 ジムノペディの穏やかなメロディーのお陰?もあって、すぐさま麻酔も効いて、すとんと眠りに落ちた僕は手術室に入ったまでの記憶しか無くって、気が付いたら、もうすでに全ては終わって病室のベッドの上でした。なんだか、本当に手術は済んだのかな???って思っちゃうくらい実感出来なくって、とてもとても不思議な気持ち。 

雪の日に_01.JPG
 これは手術当日じゃなくって、退院の日のランチ。学校生活で1度も給食経験のない僕にとって、病院のごはんって、何だか給食みたいで面白かったです。確かにあんまり美味しくはなかったかもしれないけど、でも意外とイヤじゃなかったなぁ(^^。


 やはりこれも生まれて初めての経験となる点滴を受けながら、ぼんやり眺める窓の外は、今年2度目の大雪。そう。この日は2月14日、バレンタイン・デーでした。なんだか、へんてこりんなバレンタインだったなぁ。まさにMy funny valentine(→http://www.youtube.com/watch?v=s8skY3y4A0o)。きっと、一生忘れられないや(苦笑)。





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