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アンリ・ルソー / 『馬を襲うジャガー』 [ART]

Manhattan Trinity_The Gentle Rain.jpeg
Artist : Manhattan Trinity
Title : "THE GENTLE RAIN"
Release : 2006 (※jp)
Style : modern jazz (piano trio)
 
 今回は久し振りにCDレビュー・・・ではなくて(^^ゞ、このジャケットに使われているアンリ・ルソーの絵のお話。taekoねーさんのプーシキン美術館展の記事(http://taekoparis.blog.so-net.ne.jp/2018-06-09)に付けた自分のコメントを少し膨らませて書いてみようかな、と(^^。それにしても、作為的なのか無作為なのか、いつ見ても人を食った様なトボけた作品だこと。画中食べられてるのはヒトじゃなくってウマなんだけどさ(笑)。





 僕がルソーの『馬を襲うジャガー』と出会ったのは、もうかれこれ12年前。それは、ジャズピアニストのサイラス・チェスナットを中核とするトリオ、マンハッタン・トリニティのCD、2006年作品『ジェントル・レイン』のアルバムジャケットとしてだった。もっとも、その時僕はこの絵がルソー本人の作品とは思っていなかった。実は、初見のその場で2つの思い違いをしてしまったんだ。

 間違いの現場は多分、横浜か川崎のHMVの店頭。新譜紹介のコーナーでだったか。そのCDに興味を惹かれた理由は完全に1点。ジャケットに描かれていた絵のせいだった。そこで僕は勝手に早合点をしてしまうのだが、先ず1つ目の思い違いは、このジャケットの絵が他の作家によるルソー作品のパロディだと最初から思い込んでしまったこと。2つ目は、実際ルソーが描いたのは「ジャガーに襲われる馬」なのに、僕にはこの絵が「馬がジャガーを逆襲して食べちゃってる図」に見えてしまったこと(^^;。もちろん、実際において馬がジャガーを襲って食べちゃうなんてのはナンセンスで有り得ないこと。でも、それを勝手にパロディだと解釈してしまった僕は、店頭でその面白さに1人吹き出してしまったのでした[わーい(嬉しい顔)]。「これって『ライオンの食事』のパロディ?」ってね(苦笑)。


ルソー_ライオンの食事部分.jpeg

 『ライオンの食事』はメトロポリタン美術館の所蔵作品。2002年12月07日から03年03月09日の間に渋谷の東急Bunkamuraで開催されたメトロポリタン美術館展の折に来日、展示された。熱帯を旅したことのないルソーがパリの植物園の中だけで空想を膨らませたユニークな「夢」のジャングルの光景は来館者の人気を大いに集めていたもの。僕もこのユーモラスなライオンの姿には堪らず降参[わーい(嬉しい顔)]。それ以来すっかり不思議なルソー・ワールドに嵌まってしまっている。


 CDショップの店頭で僕がこの『The Gentle Rain』を手に取ったのは、メトロポリタン美術館展で観たこのルソーの強烈な印象が在ったからに外ならない。もしも『ライオンの食事』を予め知らなかったら、素通りしてしまっていたかもしれないな。でも、実際の僕は、これをパロディだと思い込んで、笑って、結局そのジャケットの絵にすっかり魅せられてしまって、CDを購入してしまった。

 実は正直に述べてしまうと、このアルバムの演奏トリオであるマンハッタン・トリニティーの作品は、僕の趣味からすると、ちょっとだけ違うジャズだったりする。いにしえのモダン・ジャズのスタイルで、所謂ジャズ・スタンダードを、って演奏はFusion世代のおしりの方で育った僕には少しばかり古めかしく感じてしまうところがある(^^ゞ。それに、このトリオ名義のアルバムは日本のレコード会社の企画物の匂いがプンプンするしなぁ(お好きな皆様、ごめんなさい[あせあせ(飛び散る汗)])。音楽的に決して嫌いじゃないし、聴かないカテゴリーじゃないんだけど、アルバムを買って1枚通して聴くほどじゃないってのが実際のトコ。それでもこの時に関しては、アートワークに使われている「ルソーのパロディ」がなんて名前のアーティストの手によるものなのか、ど~~してもクレジットを読んで確かめたくなっちゃったのだ。

 ところが、家に戻ってクレジットを見てみても、ジャケットの絵に関する記述は全くなし。なんでだろう?といぶかしく思いつつ、改めてそのジャケットをまじまじ眺めていると、右端にサインがあるのに気付いた。読めばそれには「Henri Rousseau」とあるではないか(^^;。

 この絵は他人によるルソーのパロディなんかじゃない。本人による一種のヴァリアントなんだ[ひらめき]と、その時点で先ず1つ目の間違いに気付いたわけなんだけど、もう1つの白馬がジャガーをガブっとやっちゃってる部分に関しては随分と後まで全然疑問に思わなくって(苦笑)。


ルソー_ライオンの食事.jpg
◆アンリ・ルソー / 『ライオンの食事』(1907年)メトロポリタン美術館蔵


ルソー_馬を襲うジャガー.jpg
◆『馬を襲うジャガー』/ アンリ・ルソー(1910年)プーシキン美術館蔵


 二つの絵をこうして並べると、『ライオンの食事』を知っていた僕が勘違いしてしまった理由も解りやすいと思う。『馬を襲うジャガー』の構成は、立ち位置といいポーズといい、ライオンがそのまま白馬に置き換えられているだけだと即座に思えて(=勘違い出来て?)しまうでしょう?(苦笑)。

 今改めて、よくよく見てみたってヘンな絵だ(笑)。白馬ののど元を仕留めようと飛びついたハズのジャガーは狙いを外し、その頭は馬の首の向こうへ隠れてしまっている。アングルの『グランドオダリスク』の背中よろしくジャガーの頸椎がろくろ首みたいに伸びていて、馬の首の真後ろから噛みつけているのなら兎も角(^^;、これじゃ、まるで抱きついているふうにしか見えない。それだから、馬はちっとも恐れの表情を浮かべない。飄々として何事も無いかの様な顔で真正面を見据えてる。その口の真下に、頭が隠れたジャガーがいるものだから、てっきり僕はライオンの食事の構図そのまま、白馬がジャガーに逆襲を・・・と思ってしまったってワケ。


 ルソーのこれらの絵の着想は、もしかしたらジェリコーやドラクロワの馬を襲うライオンや虎の絵(参照:http://ilsale-diary.blog.so-net.ne.jp/2014-01-10)から来ているのかもしれないけど、彼独特の表現力に因って、それこそ作為か無作為か、劇的なロマン主義とはほど遠いほのぼのした絵になっちゃってるところが僕にとっては愉快極まりない。ま、ルソーを偉大な画家と評価していた有元さん(画家・有元利夫)は、この素朴派に括られるトボけたおじさんは全く油断がならないと見做してた(参照:http://ilsale-diary.blog.so-net.ne.jp/2010-08-10_arimoto2)みたいだから、もしかしたら、馬に襲われるジャガーなんだと僕みたいに間違った受け取り方をされることも重々織り込み済みで、意図して曖昧に描いていたのかも?(深読みし過ぎか・・・笑)。

 ルソーはこんな具合に僕にとって、永遠に謎だらけ。だからこそ、彼の絵に惹かれてしまうんだよね[わーい(嬉しい顔)]


★ ★ ★




 おまけじゃないけど、せっかくだから最後にサイラス・チェスナットのピアノをどうぞ。
 曲は"It Could Happen To You"。「あなたにも(何かが)起きるかもよ」って歌ですが、馬がジャガーを食べちゃうなんてことがあるかもよ、と「かもよ」だけでこじつけるには相当な無理があるかな?(笑)。

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