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山口蓬春の描いた花菖蒲と紫陽花 [ART]

 ずっと以前から、6月になったら日本画の画題としての花菖蒲と紫陽花でblogを書こう書こうと思っていたのに、いざとなると愚図ぐずしてあっと云う間に時季が終わってしまう・・・なんて事の繰り返し(^^ゞ。今年こそちゃんと書こう[手(グー)]!。

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◆『首夏』(1967)


 何も花菖蒲や紫陽花に限った事じゃない。4月末に牡丹と芍薬を題材にして書いても構わないのだが、一向にblogに出来ない理由を自己分析(?)してみれば、花を描いた画家とその作品は星の数ほど有るわけで、余りに多くて絞りきれないのってが、最大の理由になってるのは間違いない。画題だって、梅に桜に椿に牡丹、芍薬、睡蓮と挙げだしたら切りが無い。僕の愛する花として花菖蒲だけに限定して絵を選んだとしても、安田靫彦、小林古径、奥村土牛、小倉遊亀などなど好きな画家の素敵な作品が幾つもあって、それぞれに対する思い入れも有って、文章にするにしてもテーマがとっ散らかってしまい収拾が着かないのだ。そんな事も有り、今回は取り敢えず一人の画家のみに絞り込んでみた。時季としても梅雨を意識して、その上で選んだのが山口蓬春だ。


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◆『まり藻と花』(1955)

 山口蓬春(やまぐち・ほうしゅん:1893年10月15日~1971年5月31日)は北海道・松前生まれの日本画家。銀行員だった父の転勤に伴い10歳の頃より東京・高輪で育ち、当初は白馬会研究所にて洋画を学ぶ。大正4年に東京美術学校(現東京芸術大学)に進学し、二科展でも2度入賞するなど洋画に於いても順調にその才能を伸ばすが飽き足らず、在学中に日本画へと転向する。延べ8年の学生生活を送り、大正12年に主席で卒業すると、松岡映丘の元にて伝統的な大和絵を習得するべく研鑽を重ねた。その後、大正15年の第7回帝展に『三熊野の那智の御山』を出展すると、同作が帝展特選、帝国美術院賞を受賞し宮内庁買い上げとなるなど、若くして華々しい画壇デビューを飾った。画家となってからは代々木八幡に住まったが戦中は疎開して山形へ。戦後は美術蒐集家で芸術家のパトロンとしても知られる実業家・山崎種二(山種証券の創業者)の計らいでその葉山別荘にて1年半を過ごし、やがて当地に別個自宅兼アトリエを構えて終生創作に励んだ、神奈川とは縁の深い日本画の大家だ。


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◆『湖畔』(1954)

 その葉山旧宅は現在山口蓬春記念館http://www.hoshun.jp/)として一般に公開されていてる。神奈川県立近代美術館葉山の駐車場に接する海岸道路を反対側へ渡って少しだけ入った場所、徒歩1~2分で着く様な位置に在り、僕も2度ほど出向いた事がある。海岸からもすぐ近く、潮の香りも直に届くだろう山裾に閑静に佇む邸宅の庭には梅の古木が数本あり、数年前の1月に訪問した折には丁度小さな白い花がほころんでいた。その香気に包まれると、自分がまるで蓬春の描いた作品の画中に取り込まれた様な心地がしたものだ。僕にとっての蓬春のイメージとは、まさに「花」。今回ここに掲載した様な「花々と、そしてそれらを活けた器を優美に描いた画家」なのだ。


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◆『瓶花』(1962)

 蓬春は日本画と云うジャンルに身を置きながらも、学び始めた当初は洋画を志しただけあって、ブラックやマティスらのフランス絵画に影響を受けたモダンな作風、所謂新日本画スタイルで知られる。今回ここで紹介した花の作品群にもキュビスム的な影響が見て取れるだろう。

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◆『櫂上の花』(1949)

 記念館で販売されている画集の表紙に使われているこの絵も、いかにもマティス風。この作品は平成4年に日本郵便より62円切手の図柄として採用、発行されている。


 今回、僕はテーマを絞り込む都合で「花菖蒲と紫陽花」に限定してしまった(^^ゞため、ここでは敢えて画像は紹介出来ないが、昭和20年代半ばの代表作とされる※『夏の印象』(1950年)、『都波喜』(1951年)など余りに爽やかで日本画らしさが殆ど無い、直裁に申せばまるでデュフィを思わせる作品も残している。まぁ、そもそもデュフィがマティスの影響下にある画家なので、描いたご本人の中では、あくまでデュフィではなくマティスなのかもしれませんけど(笑)。
※作品画像は前記した蓬春記念館のサイト内「山口蓬春の歩みと作品」でご覧頂けます。

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◆『梅雨晴』(1966)

 雨ばかりが続くこの時期は間違いなく憂鬱な季節ではある。履く靴は選ばなきゃいけないし、癖っ毛の僕は湿気で髪もまとまらなくなる。出来る事ならば雨降りの日には家から出たくないし、友達に会うのさえ億劫だ(^^;。それでも、花菖蒲と紫陽花が咲いてくれる時季なんだと思えば、昔、それ程花になんて興味が無かった頃の僕とは比べ物にならないくらい、毎年6月が待ち遠しくなってる。蓬春の絵を見てうっとりして、すっかり影響されて、雨の庭へカメラを持って喜んで出る。我ながら、そんな変化が自分に起きた事を、つくづく面白いなぁって、思うのだ(^^。


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