SSブログ

Que reste-t-il de nos Amours ? [jazzっぽいの、好き?]


Charles Trenet / "Que reste-t-il de nos Amours ?"

 スタンダード・ナンバーとして、多くのジャズ・シンガーやプレーヤー達にそれこそ星の数ほど演奏されて来た楽曲の1つ、『I Wish You Love』。僕も大好きなナンバーだ。その原曲はフランスのシャンソン歌手であるシャルル・トレネ(Charles Trenet: 1913年~2001年)が自ら作詞した『Que reste-t-il de nos Amours ?』で、最初のレコードが世に出たのは1942年。今からなんと78年も前[exclamation]の曲なんだね。




 最初にお断りを入れておきますが、現在ネット上で検索すればその78年前のオリジナル音源(1942)を耳にする事は容易いのですが、権利関係が不明=クリアでない様ですから、その点を踏まえて僕がここに載せたのは1965年のライブ映像です。敢えて推奨は致しませんが、興味が有るようでしたそちらをご自身で検索なさってみて下さいな(^^ゞ。


 さてこの曲、「終わってしまった恋=別れ」がテーマです。ですから、本来ならば悲しいお話の筈なのに、何故だかサラッとお洒落に演奏されることがとても多いんです。でも、その理由は簡単。そもそもオリジナルがそう云うアレンジだったから(^^。

 その音源は、78年も前の録音だけど僕にはとても新鮮に響きます。少しも古臭く思えない。もちろん、時代性は当たり前に感じますので、レトロではあるのは否定しません。でもね、素晴らしいメロディーを持った楽曲ってのは、これはもう永遠に瑞々しい顔をしているんだなぁ[るんるん]


 繰り返しになりますが、シャルル・トレネがこの曲を発表したのは1942(昭和17)年。つまりは第2次世界大戦中で、40年にパリが陥落してフランスはドイツに敗戦した後のこと。親ドイツ政権が樹立され、それに抵抗するレジスタンス運動が・・・なんて暗い時代の真っ只中なのに、この曲の軽妙洒脱な出来は何を意味していたんだろうなぁ等とも思うわけです。

 その点には大いに疑問に感じるんですが、こう書いておきながら今回のエントリではその辺りサラッとスルーしちゃいます。今回は歴史や政治向きの話をしたいわけじゃないんでね。機会が有ったら調べましょう、くらいで(^^ゞ。まぁ、その前の戦争でのアルザス・ロレーヌ割譲の時に流行った『犬の唄』(※参照→ https://ilsale-diary.blog.ss-blog.jp/2013-01-16)もそうだった様だけど、フランス人って逆境に陥ると皮肉が昂じて遂には笑っちゃうのかもしれませんね。軽く、そう、自虐的に(^^ゞ。


★ ★


 トレネと云えば、以前にやはり『I Wish You Love』について調べていた時に知ったことがもう1つ。
 僕が高校生の頃、ジャズにハマっていく過程のごく初期にとてもよく聴いていたアルバムにジョージ・ベンソンの『20/20』があります。

 まだLPの時代。アルバムA面のラストに1曲、それまでのコンテンポリでポップなナンバーとは全く趣を異にする、ゴージャスなビッグバンド・ジャズのサウンドが紛れ込んでいました。僕の耳には明らかに「浮いている」その曲に乗って、気持ち良さそうにベンソンがスウィングしつつ歌い上げていたのは『Beyond the Sea』(原題:La Mer)。高校生が聴くには、ちょっとばかり当時の流行とはかけ離れていたけど(笑)、聴くほどにそのメロディは耳に馴染んでいって、いつの間にか大好きに。その曲の作詞作曲がトレネだったんです。へ~っ[ひらめき]



Charles Trenet / "La Mer"(Officiel) Live Version


 後年、この曲はAORキングと呼ばれたボビー・コールドウェルがやはりビッグバンド・スタイルの作品『BLUE CONDITION』(1996)でレコーディングして、それは僕にとってアレンジの所々にベンソンのヴァージョンを思い出させる作りでした。このビッグバンド・スタイルは次作の『COME RAIN OR COME SHINE』(1999)でも継続され、そのフォーマットでのライブが日本でも行われました。会場はBluenote TOKYOで僕も観に行きましたっけ(なつかし~^^)。ジョージ・ベンソンとボビー・コールドウェルと『I Wish You Love』のコンポーザーであるシャルル・トレネ。好きなものは繋がっているもんだな~なんて思って、ちょっと嬉しかった[わーい(嬉しい顔)]


★ ★ ★


 以下、僕がCDを所有する作品の中でカバーされている『Que reste-t-il de nos Amours ?』の内、お気に入りヴァージョンの幾つかご紹介(※アーティストや所属レコード・レーベルなどオフィシャルなものをチョイスしています)。


Gabrielle Ducomble

 ベルギーの女性歌手、ガブリエル・デュコンブレのアルバム『Notes From Paris』(2016年)より。CDショップの販売ジャンル的にはジャズにカテゴライズされていますが、2000年代初頭はフレンチ・ポップス系の作品をメジャーからリリースしていたそうで、このアルバムもフレンチ・スタンダードを中心にかなりポップな仕立て。ここでの『Que reste-t-il de nos Amours ?』は、アコーディオンのみが寄り添う切なげなヴァースを経て、本編では柔らかなガットギターが全編にわたり優しくリード。ガブリエルは甘く伸びやかな声を持つヴォーカリストですが、抑制的に声量をコントロールし、爽やかな中にも凜とした空気感が漂う出来映えとなっています。





Barbara Casini

 現代イタリア・ジャズ界きっての最重要人物と云っても差し支えない躍進が続くトランペッター、ファブリツィオ・ボッソの参加作品を追う課程で知った女性ヴォーカリスト、バーバラ・カシーニ。彼女の2009年作は今回のエントリ主役であるシャルル・トレネに縁ある楽曲を集めたシャンソン・アルバム。その『FORMIDABLE!』ってタイトルは「敵わない!」とか「手強い!」だとか、バーバラからのトレネに対する格別感、畏敬の念と解釈していいのかな?。
 それにしても、アメリカ文化であるところのジャズを歌うイタリア人ヴォーカリストによるフランス人作家作のシャンソン集って、なんか不思議な、妙な気もして面白いでしょ?。尚且つ、バーバラ自身がギターを爪弾き歌う『Que reste-t-il de nos Amours ?』は抑制の効いたボッサ・タッチでブラジル風(^^。音楽文化の国際感覚、多様に入り乱れてます(笑)。ちなみに、ボッソはこの曲では出番は無しです、あしからず(^^。





Celso Fonseca / 『O Que Restou Do Nosso Amor』

 ブラジルのギタリスト/ヴォーカリストのセルソ・フォンセカによるポルトガル語でのカバー。収録アルバムは相棒の作詞家であるホナウド・バストス(Ronaldo Bastos)との連名作にて『Juventude / Slow Motion Bossa Nova』(2002)。ただし、このミュージック・ビデオは動画用に録音、撮影したものと思われ、基本的なアレンジは踏襲しているものの別ヴァージョン。このビデオでイントロを聴いていると、アルバムのタイトルチューンでもある”SLOWMOTION BOSSANOVA”を思わせる音使いが為されている事に気付いて、思わずニヤリとしてしまう「セルソ好き」は僕だけじゃないだろうな(^^。





◆Sophie Alour / 『Que reste t'il de nos amours (Live)』 (Charles Trenet)

 歌物ばかりが続くので、1つインストもご紹介しておきましょう。

 自分で「所有するCDの内から」と書いておきながら、フランスは1974年生まれの女性サキソフォンプレーヤー、ソフィー・アルール(Sophie Alour)のこのビデオに関してはごめんなさい、持ってません。だってライブ音源なので、そもそもアルバムに収録されていないみたいなんですもん(苦笑)。ちなみに、映像中にさも収録アルバムの様に(笑)登場するジャケットの『TIME FOR LOVE』(2019年)は所有しているんですが、僕の手元にあるディスクには未収録の為、もしやライブ音源がボーナストラックになっているヴァージョンのCDが存在するのか?と思い検索してみましたが、そんな事も無い模様(^^;。

 肝心の演奏はピアノとのデュオによるメロウかつロマンティックなバラッド、いやフランス人作家の曲をフランス人が演奏してるんだから、この場合は英語の「 ballad」じゃなくて「バラード(仏:ballade)」って表記を素直に選択したって良いんだよね^^。サックス・プレイヤーの演奏って、そのミュージシャンが指向した目標やアイドルだった人の音色や息遣いが、影響としてその演奏に顕れることが儘有ります。ここでのソフィーの「バラード」には、コルトレーンが寄り添っているのかな~なんて、つい僕には思えてしまいました。





Stacey Kent

 僕の思うところでは、この15年以上、別格の存在感を以てジャズ・ヴォーカリスト界で輝きを放ち続けるステイシー・ケント。アメリカ人ながらイギリスを活動拠点としていた彼女にとってはパリもがっちり守備範囲内でフランス語も大得意(^^。2010年には全編をフランス語にて歌い上げたアルバム『Raconte Mo...』をリリース。”Que Reste-T-Il De Nos Amours”はそのアルバムのラストに収録されています。たったの3分にも満たない短い演奏ですが、ガット・ギターのみを従えたステイシーのヴォーカルはひたすらに優しい。もう2人はこれでお終いになってしまうけど、きっと元気でいてね・・・って最後にそっと語りかけてくれる様な。実はトレネ作フランス語詞は「愛は何故終わってしまったのか?」と過去を振り返りつつ「それらが過ぎ去った今、何が残されていると云うのか」と云った内容なので、英語詞の「君が愛に包まれています様に」と別れゆく相手の先々の幸せを思い遣る世界観とはまた違ったものなのですが、僕はどうもフランス語、英語のそれぞれの物語を勝手に重ねてしまいがち(^^ゞ。トレネの詞が男性の追想、英語詞が女性側の気持ち、なんてふうにね。

タグ:jazz

共通テーマ:音楽