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大津絵風藤娘 [ART]

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 サントリー美術館で行われていた展覧会『生誕300年同い年の天才画家・若冲と蕪村』で見た若冲の描いた藤娘の図。一目見て、「あ、大津絵!」って頭に浮かんだ。でも、僕はこれまでほとんど大津絵って物の現物を見た事もなければ、興味を持って調べてみた事も無い。なのに、どうして若冲のこの絵で大津絵の事を思い出したかと云えば、実は一人の明治の洋画家のせいだったりする。


 そもそも大津絵ってなんだろう?。

 大津は地名。今の滋賀県大津市で、同県の南西に位置する県庁所在地。昔は近江国。すぐ隣に位置する京との境である西に比叡山がそびえ、延暦寺の門前町。琵琶湖の水上交通の要衝であり、港湾都市として大いに栄え、大津宿は東海道の最後の宿場町でもあった。

 その大津を発祥として、江戸時代初期から東海道を行き交う旅人たちの間で土産物として流行った大衆向けの民俗画が大津絵と呼ばれる様になった。元々は仏画がその始まりだったそうなのだが、時を経て「戯れ絵」化し、売り物としての画題は様々に俗化してゆく。やがては百を超えるような種類の画が描かれたそうだけど、文化文政期(1804-1829)には代表的な10の画題が「大津絵十種」と呼ばれ、大津土産の定番となって行ったんだって。そこには護符としての性質や訓戒的な意味合いを含ませていたとの事で、例えば今回取り上げている藤娘は「良縁をもたらす」画柄として江戸期の庶民に大いに親しまれていたんだそうな。

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◆大津絵 雨宝童子(写真引用 / 大津市歴史博物館:http://www.rekihaku.otsu.shiga.jp/

 それはきちんとした技術を持った絵師によって描かれたものではなく、あくまでお土産物なので、大抵は素朴な作風だ。いや、はっきりと云ってしまえば素人風で、素朴を通り越してその筆運びには「拙い」だとか、更にはまるで悪戯書描きに近いとさえ思える品もある。だけれども、その「拙さ」が滑稽な漫画ふうの画題と合わさることで、何とも云えないユニークな味わいを醸し出しているのだ。

大津市歴史博物館_展覧会チラシ.jpg

 参考になる様な画像が見たくって色々検索していたら、こんな過去の展覧会チラシがあった。何でも町田市博物館が東日本で有数の大津絵コレクションを所蔵していていて、平成25年に大津市歴史博物館で里帰り展を行っていたみたい。『藤娘』をはじめ『鬼の寒念仏』、『鍾馗』、『長刀弁慶』、『瓢箪鯰』など、ここに描かれている画題が大津絵として有名なもの。これがそのまま「大津絵十選」にも当たるのかな?。そう思って更に検索してみたらこんなお店のページを見つけた。

◆参照→大津絵の店(大津絵十種:http://www.otsue.jp/intro_busi.html

 画題と画像に加え、それぞれの”効用”が書かれてあって興味深い。


若冲_藤娘.jpg
◆『藤娘図』 / 伊藤若冲 京都石峰寺蔵

 前述した様に大津は比叡山を挟んですぐ京都がお隣。若冲はその京に住まっていた。旅土産として人気の有った藤娘は京でも好まれた様で、若冲もその基本に則り、笠を被り藤の枝を持つ美しい娘姿をそのままに描いている。

 それで、冒頭にかえって僕がどうして大して知識も無いくせに、この若冲の藤娘図で大津絵をすぐに思い出したかと云えば、その理由はこの絵皿の図案から。

浅井忠_大津絵藤娘.jpg

 なんとこのお皿、明治の洋画界の第一人者、浅井忠(1856-1907 wiki→)が意匠考案したものなんだ。

 浅井忠の絵と云えば、師匠であるアントニオ・フォンタネージ譲りの自然主義的な風景画や、フランス留学時に滞在し印象派的手法で描いたグレー村の光景を、多くの人が先ず思い出す。彼はあくまで近代洋画の世界の重鎮なのだから。

 でも、僕が浅井忠に大いに興味を覚えるのは、その本道からちょっとばかり外れたところ。漱石の『吾輩は猫である』に提供した挿絵だったり、京都へ移ってからの工芸デザインの部分だったりする。

浅井忠_今様藤娘.jpg
◆浅井忠 / 『今様藤娘』

 古くからの画題である「藤娘」をマナー通りに描くだけでなく、時代に沿った、“今様”の藤娘も浅井は描いている。当然に、留学中パリで見たアールヌーヴォーのポスター類に触発されているのは間違いないけれど、大津絵を愛した彼は、それに当時の最新解釈を与えることによって、当人意図せずしてニッポンのイラストレーターの草分けにもなっているんだよなぁ。




 さてさて、ここから浅井忠について書きたいことをこの場で書き始めてしまうと、おそらく色んな方向に脱線してしまって収拾が着かなくなってしまいそう(^^;。このエントリーはあくまで『藤娘図』で済ませて終わらせましょう。と云うのも、僕の頭の中では、若冲の藤娘→大津絵→浅井忠の洋画以外の仕事→我が輩は猫である→大倉書店と大倉孫兵衛→オールド・ノリタケなんて具合に、連想のレールばかりが既に敷かれてしまってるんだけど、それを全て文章にしようと思ったら結構な骨だもの。ちょっとした連載になっちゃう(苦笑)。

 とは云え、ちょっとその気にもなってる自分もいるわけで(^^;、今回のエントリに関しても実際に大津絵を観に行ってみようと、駒場の日本民藝館(http://www.mingeikan.or.jp/)に「取材」(笑)にも出掛けちゃったりしてね。

柳宗悦の大津絵コレクション表紙.jpg

 残念ながら今回は柳宗悦コレクションの藤娘図を実見する事はできなかったけど、初期大津絵の仏画が展示されていた。

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