SSブログ

国立西洋美術館 / 常設展① [ART]

 この夏の猛暑が舞い戻って来たかのような強い日差しの土曜日、上野で人と会う約束をしたので、ものは序でと国立西洋美術館の常設展を観に行くことにした。7月の始め、パルマ展の後にも少し立ち寄ったのだけれど、あの時はまだモネの大回顧展が終わっていなかったために、僕の好きな近代フランス絵画の部屋は随分と“お留守”だらけだったのだ。モネが戻って来た頃にまた行きたいな、って思っていたから丁度良いタイミング。今日はカメラを持って出掛けよう。





 本当だったら常設展全部を、ゆっくり2~3時間掛けて写真を撮って回りたいところだけど、待ち合わせた人との約束の兼ね合いが有って、結局そんなにはのんびり出来なくなってしまった。中世イタリアやフランドルなど撮りたい対象はいっぱいなれど、その辺はサクサクっと鑑賞だけして、撮影はまたのお楽しみ。今回は近代フランス絵画のみ重点的にお勉強。今まで何度も来てるけど、写真を撮ったりメモしたり、なんて事はしたことなかったから、じっくり観ると、こんな作品あったっけ?、なんて改めて気付いたりして・・・(汗)。常設展はいつでも来られるから、なんて軽く考えてた証拠かな。ちと反省デス(^^ゞ。

 取り敢えず、自分の気に入った作品ばかりをこれから並べるわけですが、今回は先ず、印象派誕生よりちょっとだけ前の世代の画家達による作品を。



ギュスターヴ・ドレ : 1832生-1883没 / 「ラ・シエスタ、スペインの思い出」(1868年)
カンヴァス、油彩

 さて、こちらは平成17年度の新規収蔵作品。挿絵画家として活躍していたというドレは、はっきり云って一般にはあまり馴染みが無い画家だと思うけど、オルセー美術館に1点、とても印象的な『謎』(1871)と題された油彩作品が在る。その絵は99年にこの西洋美術館で開催された“オルセー美術館展”にもやって来ていて、戦争をテーマとしたその作品はなかなかに人目を引くものだったので、ご覧になれば、ああ、あの作品か!、と思い出される方も居られるだろう。

 この絵を目の前にして、「シエスタ=午睡」と題されたこの絵の登場人物たちが幸せなのか、不幸せなのか、よく理解出来ずに戸惑ってしまうのは僕だけではないと思う。画面右手前、黒いマントを羽織った少女の虚ろな眼差しと赤ん坊を抱く赤いマントの女性に、僕はドラクロワの「キオス島の虐殺」(1824)を思い浮かべてしまったのだ。かと云って、あの絵ほどまでには、決定的に何かが絶望的なものを暗示しているわけでもなく・・・。

 そう云えば光の当たっている男性の顔はレンブラントの肖像そっくりにも思えるね。

 図録を買って、あっさり解説を読んで全てを知ってしまいたいとも思いつつ(※新蔵作品だから載ってないかもしれないけど・・・^^;)、あれこれ勝手な想像を巡らすのもまた、絵を楽しむ方法のひとつかな、などとも思う。次回に観た時には、また全く違った印象を持つかも知れないしね。しばらくこちらも「謎」にしておこう。

<参考>

「謎」(1871) オルセー美術館所蔵

 ちなみに、ドレはアルザスの出身。この絵が描かれた背景には普仏戦争でのフランス敗戦に因る、屈辱のアルザス・ロレーヌ地方の割譲があるのだそうだ。ドレは故郷をドイツに奪われて失ってしまったと云う絶望感を、ギリシャ神話のオイディプスの物語を下敷きにして、擬人化された女性としてのフランスが、「何故こんな事に」と嘆きスフィンクスに問い掛けるシーンとして描いているのだとか。



ジャン=フランソワ・ミレー : 1841生-1875没 / 「春(ダフニスとクロエ)」(1865年)
カンヴァス、油彩

 7月に来た際、ミレーにこんなふうに古典をモチーフに人物を描いた絵が在ったんだ~!、と不覚にも吃驚してしまった作品。前から在った(?)のだとしたら、どうして全然気にならなかったのかなぁ・・・?>ぢぶん(苦笑)。

 『ダフニスとクロエ』とは2世紀後半から3世紀前半に古代ギリシャの詩人ロンゴスが書いたとされる恋愛物語で、幼くして親に捨てられ、レスポス島で牧人に育てられたダフニスとクロエの成長と愛の成就が語られている(展示説明よりそのまま引用)物語で、ミレーは依頼主の邸宅の食堂を飾る一連の4作品の1つとしてこの作品を描いたそうで、このテーマは果たしてミレー本人のアイディアなのか、それとも客の注文であったのかを思うと、なかなか興味深いところだ。日本人の多くが思い浮かべる、清貧な農民を描くミレーとは随分イメージが違うものね。

 パルマ展の帰りにこの作品も観たとあって、ギリシャの古典文学と云うテーマや柔らかなナロー・シェイプの人体に、ついパルミジャーノやマニエリスモの画家達の作風をそのまま思い出してしまった。



ギュスターヴ・クールベ : 1819生-1877没 / 「罠にかかった狐」(1860年)
カンヴァス、油彩

 イタタタっ・・・!。観ているこちらの方が痛々しくって、つい甲高い咆哮を挙げてしまいそうになる可哀相なキツネくん。今のご時世なら愛護団体からクレーム来そう??。さすが(?)お騒がせ男、クールベ(笑)。



ウジューヌ・ブーダン : 1824生-1898没 / 「トルーヴィルの浜」
カンヴァス、油彩

 ブーダンの描く海岸は、いつだってファッショナブルな男女でいっぱい。僕から見るとブルジョワ的でとても上品に思える浜辺は、当時一番スノッブな連中が集まっていて、静かどころか、とっても賑やかで陽気な場所だったんだって。



ピエール・ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ : 1824生-1898没 / 「貧しき漁夫」
カンヴァス、油彩

 比較的地味な作品ではあるのだが、何故かとても気になる1枚。こんなマテリアルな時代に生きていると、どうにも無理からぬ事とは思いつつ、貧しくとも、清く美しく敬虔な祈りを捧げる彼の姿に、日頃の浅ましい自分をつい反省しちゃったりして・・・(苦笑)。

 ま、冗談はさておき、シャヴァンヌの常に色数を抑えたマットな色彩、簡素かつ立体感を取り除いた平明性は、後のスーラ、シニャック、ゴーガンやドニを始めとするナヴィ派の面々、カリエールにルドンと多彩な面々に大きな影響を与えることになるのだが、ここ日本では残念ながら今一つ目立たない存在に甘んじている。しかし、ポスト印象派以降のフランス絵画に興味を持てば持つ程、シャヴァンヌの及ぼした影響の大きさを思わずにはいられない。そこに気付くと、俄然シャヴァンヌ作品はより以上に輝いて見えて来るんだけどなぁ・・・。

 因みに攻撃的で偏屈No,1のドガはモリゾ家のパーティでシャヴァンヌと出会い面識は得たものの、同世代の彼との間に友情は芽生えなかったらしいが、その作品には対しては常に敬意を払っていたとも云われている。

<参考>

「貧しき漁夫」(1881) オルセー美術館所蔵

 シャヴァンヌは同一作品を再度サイズや若干の構図変更を加えて描き直すことが多かった画家で、オルセーには西洋美術館収蔵作の完全版とも云える『貧しき漁夫』(写真上)、プーシキン美術館にはその習作が在る(※2005年度開催のプーシキン美術館展にて展示された→画像はtaekoさんのこちらのblogにて紹介されてます)。 この作品に関しては画家本人の説明が残されていて、絵に描かれているのは妻に先立たれた漁師の家族で、祈りを捧げているように見える男は虚しくも漁の成果を待っているところとあるが、決して貧しさを感傷的に描いたものではなく、むしろ威厳や敬虔さを付与して表現しているのだ、と述べている。

なお、2枚の色調の差異は経年変化に因る黄変、照明、印刷時の撮影など様々な原因が考えられますが、僕の写真は会場の照明の所為もあって、補正はしていますが全般的に赤味がかって多少暗く、オルセーの図録からスキャンした<参考>の図は、逆にやや明る過ぎるように思えます。




 と云うことで、次回(・・・いつになるやら^^;)は印象派を飛ばして、そのシャヴァンヌに影響を受けた世代、ポスト印象派の画家達、ゴーガンやカリエール、ドニらの作品を取り上げる予定。

 ま、常設展には会期が無いのでのんびりと・・・、ね(笑)。


タグ:美術館
nice!(12)  コメント(14)  トラックバック(1) 
共通テーマ:アート

nice! 12

コメント 14

バニラ

常設展ってまじめに観たことがなかったので こうしてyk2さんに紹介してもらっての一番の感想は「あ~、おもしろかった!」でした。 わたしも一緒に鑑賞して回った気分。ポスト印象派も楽しみにしています。
by バニラ (2007-09-10 06:39) 

pistacci

「ラ・シエスタ」は、けっこう大きめ(100号ぐらい?)でしたよね?
「貧しき漁夫」は、いつかの企画展の閉館間際、小走りで
見た覚えがあったような・・^^;;;
常設にも、とってもすばらしい作品がたくさんあるのに、どうも、
”ついで”感があって、もったいないことですね。
by pistacci (2007-09-10 20:55) 

TaekoLovesParis

yk2さんは、いつも写真がきれいだから、これ、カタログ代わりの保存版に
なりますね。ポスト印象派、だけでなく、次々と、とりあげてくださいませ。

(1)ドレ。「シエスタ」は、人物の視線がそれぞれ違う方向を見ているのが気になった作品。眠いからうつろなのか、空虚感が漂っていました。
私が初めて見たドレの作品は、ダンテの「神曲」の挿絵のパラダイス。
突然天が開けて、宇宙が見えたような絵。それが気に入ってたので、ドレの代表作でもある大きな「キリスト」の絵を見に、ストラスブルグに行き、
大きさと構図に圧倒されました。
エルミタージュ美術館展でも「山の谷間」という絵がありました。
http://blog.so-net.ne.jp/taekoParis/2006-11-10
by TaekoLovesParis (2007-09-10 22:17) 

TaekoLovesParis

(2)シャバンヌ。私もシャバンヌを知ったのは、数年前のこと。
そのときのことをブログに書いていますので、よかったらご覧ください。
http://blog.so-net.ne.jp/taekoParis/2005-12-01
by TaekoLovesParis (2007-09-10 23:23) 

yk2

バニラさん、こんばんは。

そうなんですよね、僕もあんまり真面目に観てなかったんです、今まで。
でも、ちゃんと観ると改めてとても良いコレクションだなぁ、って感じるのです。きっとね、モネ展で「黄色いアイリス」が前にも増して大好きな絵なんだと気が付いたからなのかも。
by yk2 (2007-09-10 23:52) 

yk2

pistacciさん、こんばんは。
「ラ・シエスタ」、そうです、大きい絵。

僕もね、いつも企画展を観てからばかりだったので、常設展をじっくり、って観てないんですよねぇ。確かに「ついで」なんです(苦笑)。

でも、常設展って、毎月第2第4土曜日って無料で観られるんですって!。#知らなかった・・・(汗)。
http://www.nmwa.go.jp/jp/guidance/index.html

せっかくこんな素晴らしいコレクションが在るのに、ちゃんと観ないのは勿体無いですよね。
by yk2 (2007-09-11 00:00) 

yk2

taekoねーさん、そうなんですよ。
自分用にカタログ作っておこうと思って^^;。

ドレはダンテの神曲や聖書の挿絵も描いてるんですってね。それをちゃんと見ていて知っているtaekoさんは、やっぱりすごいなぁ~。
それでまた、わざわざストラスブルグにまでも行っちゃう行動力がさすがです。

実はね、今回ドレの『謎』を思い出したのは他にもワケがあって、ジャン=レオン・ジェロームの『Black Panther Stalking a Herd of Deer』って絵を観てたら、何だかドレの描いたスフィンクスを思い浮かべちゃったんです。配置がよく似てるんですよ~。taekoねーさんに見せてあげたいくらい(笑)。

シャヴァンヌもtaekoさんお気に入りの画家の1人ですよね。
すかさずプーシキン展の記事、リンク入れさせて頂きました。

僕の手元に残ってる2年前のオルセーのチケットは、スーラの『サーカス』ですよん。しょっちゅう変わってるのかも知れませんね。
by yk2 (2007-09-11 08:20) 

バニラ

第2第4土曜日がねらい目ですね♪ 
わたしもそんなの全然知りませんでしたよ~
by バニラ (2007-09-12 11:40) 

newyork

常設展には良い絵がいっぱいあるですね。さっそく母に言わなくては。オルセー美術館所蔵の「貧しき漁夫」には、敬虔さをもっと感じますね。
by newyork (2007-09-12 12:14) 

yk2

バニラさん :

知らなかったでしょう?。タダで松方コレクションが観られちゃうのは幸せですよね~。バニラさんのblog読んで、もっと秋めいてきたら、朝倉彫塑館から散策して上野公園まで戻って西洋美術館ってのをこの第2or第4土曜日にしてみようかな、と考えてます。

newyorkさん :

ラジオ体操CDのお母上さまですね(笑)。きっと楽しんで頂けると思います。

でもね印象派好きには、メトロポリタンにいつでも行ける環境のnewyorkさんは羨ましい限りなんですよー。あそこの印象派作品はハヴェマイヤー夫人のコレクションをはじめ多くがメアリー・カサットのチョイスで購入されたものが基幹を成しているそうですから、或る意味、印象派に対する審美眼としては世界一の目利きが選んだと云ってもよいかもしれませんものね。
by yk2 (2007-09-12 23:29) 

シェリー

常設展示って気になるけれどいつも目的の展示を見た後みてみよう
なんて思っていたら、疲れちゃってたり、時間がなくなっちゃてたり
で、ゆっくりみて回ったことないです。
でも常設だからとあなどれないんですね!
次回美術館へ行くときは、常設もちゃんとチェックしなきゃ!

でも・・・やっぱりきつねくんは痛々しいですよね(><)
by シェリー (2007-09-18 13:09) 

yk2

シェリーさん、こんばんは。

常設展の何が魅力かって、空いてるし写真は撮れるし、でしょうね。
東京の美術館で開催される人気の企画展は本当に人が多いから、絵をしっかり鑑賞すると云うよりも、経験として「見た」程度にしかなりません。だから、本当に心ゆくまで名画を鑑賞出来るのは常設展が一番。機会があったら北九州の美術館の常設展をご覧になって、どんな作品が在るか、教えて下さいね。
by yk2 (2007-09-20 00:44) 

ivanisevic

はじめまして、yk2様
「貧しき漁夫」で検索してたどりつきました。有意義な情報を教えていたきありがとうございました。コメントを一部引用させていただきました。もしご都合悪ければおっしゃって下さい。
by ivanisevic (2007-10-20 17:07) 

yk2

ivanisevicさん、はじめまして。
ご訪問&コメントありがとうございます。

シャヴァンヌで検索して来て頂いたとのこと、嬉しく思います。
本文で引用して頂いた部分は元々が図録解説に依る内容を僕が要約したに過ぎません。作品の存在についての事実が述べられているだけの部分ですので何等問題ありませんよ。むしろ、読んで頂いて西洋美術館とオルセーの2枚の関係が解ってすっきりしたと仰って下さってるので、こちらもお役に立てて嬉しいです(^^。
by yk2 (2007-10-21 02:25) 

コメントを書く

お名前:[必須]
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 1