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夏目雅子とカーリー・サイモンとボージョレのヌーヴォーと [いつかの出来事]

 とあるBarにて

 土曜の晩だと云うのに、その日は11時をまわるともう客は疎(まば)らで、一組の30代後半くらいのカップルが席を立つと、カウンターには、右の端っこに座る僕ともう1人の男性客が左端の方に残るのみでした。

 「ね、さっきまでそこで飲んでいた人さ、夏目雅子に目元がよく似てたと思わない?」

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 カウンターの向こうから、このBarの店主氏が唐突に僕に尋ねます。

 Barなんぞを経営しているクセにアルコールが全くダメと云うこの奇妙(^^ゞな人は、女性の話をする時は少し照れが入るらしく、さり気なさを繕いたいのか相手を見ないで話す癖が有ります。この時もそう。彼の視線は、ずっと手の中で磨いているグラスに遣った儘でした。

 「確かにきれいな人だったね。云われて見れば、そんなふうだったかも知れない」と、返す僕。

 すると、今度はカウンターの左端氏(僕より10歳以上は年長の方です)が僕に訊きます。

 「そんなに綺麗な人でしたか?」。

 僕はこの先この会話がどうなるかなんて特には考えずに、「はい」と簡単に調子好く言い切ってしまいます。さっきまですぐ傍にいたその女性を、僕はけしてまじまじと眺めて居た訳でも、ましてやその目元に注目なんて、まるでしてなかったクセにね(^^;。だって、「そうでもなかった」なんて云う方が、かえって色々と説明が必要になりそうでしょう?。


 少し前から、BGMには左端氏のリクエストでキース・ジャレットのピアノが鳴っています。さっきまではトリオのアルバムだったのが、続けて今度はピアノのソロ・アルバムに切り替わったところ。


The Melody at Night, With You

The Melody at Night, With You

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Universal/Polygram
  • 発売日: 1999/10/19
  • メディア: CD

 男だけ3人のカウンター。それも向こう側中央に店主氏を配し、客の僕らはそれぞれ右端と左端。

 そんな位置関係ですから、ごく当たり前の様に会話は途切れて、店の中にはキースの奏でるピアノの音だけが、ただひたすらに静かに流れています。

 キース・ジャレットは、どうも僕にとっては敷居が高く感じてしまうピアニスト。いつからかずっと、クラシック的要素が強い音楽をする人なんだと勝手に決めつけて、ジャズなのに妙に高尚なものの様に考えて遠ざけてしまっていたのです。だから、これまできちんと聴いた事が無かったりします。決して、嫌いと云うワケじゃないんですけれど。どこか、僕には綺麗すぎる様に思えてしまっているのかもしれない。
 
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 この時流れていたのも、美しく静謐なバラッドでした。
 ぼんやりとチェイサーのグラスについた水滴を眺めながら、普段は聴かないそのピアノに耳を澄ませます。

 でも、これがお酒が結構入っている身には、なかなかに強力な効能の「眠り誘う薬」で、 ついつい微睡(まどろ)むような気持に陥りがち。ダメだ、ほんとに眠ってしまいそうになる・・・(苦笑)。

 空のグラスに残された大きな丸い氷を、からんからんと2~3度回して、大きくふぅ~っとため息1つ。時間も頃合いだし、そろそろ帰れってコトかな。


 そう思った次の瞬間に「おや?・・・」と気付いたのです。

 高尚過ぎて(笑)よく分からなかったけど、今流れているこの曲はエリントン・ナンバーの"I'Got It Bad And That Ain't Good"https://youtu.be/z5Ol6CJpyYE)ではないのかな?


 途切れていた会話をもう一度繋ぐつもりはこれっぽっちも無かったのですが、タイミング良くかかったその曲が、僕に余分な口を開かせます。

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 「夏目雅子はさ、この曲を演ってるカーリー・サイモン『TORCH』ってアルバムが大のお気に入りだったんですよね」って。

 つい嬉しくなって話してしまいました。
 実はね、僕は子どもの頃からアイドルとかにそれ程興味は無かったんですが、唯一好き[ハートたち(複数ハート)]な女性タレントが夏目雅子だったのですね[あせあせ(飛び散る汗)]。高校生の頃、彼女がDJをしていた『翔べ!光の中へ』ってFMラジオの番組が日曜のお昼頃に有って、それを毎週楽しみに聴いていました。僕がカーリー・サイモンのそのアルバムを知ったのも、やがて手に入れたのも、彼女がその番組の中で、嬉々として「大好きなレコード」だと紹介していたから、なのでした。


 すると、店主氏がおっ!っと声をあげたかと思うと、すぐさまCD棚をゴソゴソやり始めます。

 「えっへっへ~、あるんだな~、それ」と、引っぱり出して来て、すぐさまかけてくれました。
 (なんのコトはない、実はこの時、店主氏もキースで大分眠くなっていたと後に判明・・・笑)。


Torch

Torch

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Warner Bros.
  • 発売日: 2008/07/15
  • メディア: CD

 このアルバムを手にしたことのある人なら、特にそれが男性なら、カーリーの大人の色香漂うジャケット・フォト(大きく胸のあいたドレスなのだ・・・笑)は気になるでしょ?、耳元にふっと息を吹きかけられる様な歌声に、何も感じないなんてコトことは有り得ないでしょ?な~んて具合に話題が急に艶(つや)っぽくなって来たら、眠かったハズの目もすっかり醒めて・・・(笑)。

 ああ、のっけからデヴィッド・サンボーンのアルトがなんと美しくブロウしていることか。ドン・セベスキーがアレンジを担当したストリングスも贅沢に配される①“Blue Of Blue”に始まるこのアルバムは、スタンダードを中心とした異色の作品で、当時既にアメリカン・ポップス界の大スターだったカーリーがジャズに挑戦すると云う異例の冒険作でした。結果として売り上げ的には失敗だったかもしれないけど、カーリーが新たな側面を現した、とても魅力的なアルバムになっているのです。

 オルゴールのように純粋無垢な音色で奏でるリー・リトナーのアルペジオが美しい②“I'll Be Around”はこのアルバム中、僕が一番好きなバラッド。「あなたの新しい恋は長続きしないでしょう。彼女がいなくなった時、きっと私がそばにいてあげる」って内容なんだけど、要は、あなたは今はまだ本当に大切なことに気付かないでいるんだよ、って優しく包み込むように歌い上げるカーリーの歌声のせつない事と云ったら・・・。聴く度に“あぁ、本当に大切な事って、この歳になっても相変わらず分からないんですけど・・・って、別の意味でも更に切なくなります(苦笑)。

 で、③がキース・ジャレットも取り上げて演奏しているデューク・エリントンの"I'Got It Bad And That Ain't Good"ですね。再びサンボーンのアルトがカーリーのボーカルに甘~く絡んで、この時点で酔っぱらいの僕はもうトロトロです[揺れるハート]

 そんなこんな?で店主氏と『TORCH』について語る内、やがては左端氏も交えて3人で色っぽい女性ボーカル談義で盛り上がる盛り上がる(^^;。後に、そろそろ帰ろうかと云った素振りを見せた見ず知らずの僕に、左端氏は「もう少し飲みましょうよ~」とデカンタで2日前に解禁になったばかりのボージョレ・ヌーヴォーを振る舞ってくれちゃったりもして(^^ゞ。

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 もうとっくに帰るハズだったのが、結局ここからまたワインをグビグビ。こんな会話が出来て楽しかったせいでしょうか、何でもないヌーヴォーがこんなにも美味しく感じるなんて、一体どうしたことだろう(笑)。

 色っぽい女性ヴォーカル序でで、店主氏が次のBGMに選んだのは懐かしのシャデー。彼女の厚ぼったい唇[キスマーク]がセクシーで好きだと云う左端さんに「あー、それ、僕も好きです~」と調子好く合いの手を入れるこの晩の僕は、まさに"Smooth Operator"※そのものだったかもしれません(^^;。
※SMOOTH OPERATORはシャデーの最初のヒット曲で、あんまり良くない意味で“調子のいいヤツ”のコトだそうな

Diamond Life

Diamond Life

  • アーティスト:
  • 出版社/メーカー: Sony
  • 発売日: 2000/11/13
  • メディア: CD





 実は、今回のこのオハナシは10年程も前の出来事だったりします。古い話にも程がありますよね、スミマセン(^^ゞ。むかーし、まだblogなんてものが無かった頃に書いた話を、少々手直しして載せました。ちょっと思うところ有って、このBarでのヌーヴォーの頃の思い出話を急にしてみたくなったものですから。
 なお、念のため申し上げておきますが、ここで掲載した夏目雅子さんの写真は撮影された某著名カメラマン氏の娘さん(僕の中・高校時代のクラスメートです)から17歳の誕生日祝いにと頂戴したものを、ここでは意図的に写真盾に入れた儘で撮影してあります。ブロマイドなどの商用写真の類ではありませんので、一切の転用、転載をご遠慮願います。




[映画]おまけ。お歳はずいぶん召されましたが、相変わらず素敵な歌声です(↓ youtube:carly's official video)。


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