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酒井抱一作、紅白梅図屏風(出光美術館) [ART]

出光_抱一紅白梅図屏風_部分.jpg

 先日観てきた『柴田是真の漆×絵展』の話を記事にしたところ、やはりその展覧会をご覧になっておられた「みみずく通信」mamiさんが拙blogにコメントを寄せて下さり、御返礼にお邪魔させて頂いたところ、その記事の中で現在、出光美術館で開催されている『日本のやきもの名品選 麗しのうつわ』展に、2月14日までの予定で酒井抱一『紅白梅図屏風』が特別出展されているのだと教えて頂いた。この展覧会は、僕も興味が無いわけではないのでチラシを貰って来ていたのに、そこではそんな話に一切触れていなかったので、mamiさんが偶然僕のblogをご訪問下さらなかったら、全く気が付かないで終わってしまうところだった。





 梅は抱一が何度も取り上げているモティーフ。出展されている屏風はどんな絵なのだろうかと調べてみると、間違いなく2008年秋に東京上野の国立博物館で開催された大琳派展にも飾られていた銀箔地の屏風の様だ。その時に観た作品ではあるけれど、今は2月。まさに梅が咲き始め、これから日毎に春めいて満開を迎えようと云う時季だ。これ程紅白梅図を鑑賞するのに相応しい時は外に無いわけで、そう思うと、観なければどうにも気持ちが収まらない様になってしまった。


 そんな事で、愚図愚図して結局は見逃してしまうだなんて事の無い様に、建国記念の祝日である11日に、早速東京・丸の内の出光美術館へと出掛けて来た。

 野々村仁清や尾形乾山、古九谷や古伊万里の名品から近代の板谷波山まで、やきものに詳しくない僕でさえ溜息が連続して止まらない様な名品揃いの展覧会も、心から賞賛すべき素晴らしいものだったけど、それでも今日この日は敢えて、抱一の『紅白梅図屏風』の事だけ、語りたい。


出光_抱一紅白梅図屏風.jpg
◆『紅白梅図屏風』 / 酒井抱一 紙本銀地着色 六曲一双 152.5 × 319.6cm
※クリックすると別ウインドウで拡大画像が開きます


 もしかしたら雪になるかも知れない程に冷たい雨が降る日に、この銀屏風の白梅図を観られたのは、偶然の事とは云え、幸運だったかもしれない。長い時間を掛けて、独特の風合い、色味へと変化した銀の渋い輝きが見る者を静寂へと誘う。まだ白い息さえ凍りそうな厳しい寒さの中で、耐えるかの様にそっと咲き始めた若い梅。

 抱一のこの銀色の梅図には、温かな春の陽よりも、こんな真冬の名残の様な寒さが似合うと、僕は思うのだ。


出光_光琳紅白梅図屏風.jpg

 今回同時に展示されていた、尾形光琳の金屏風地の『紅白梅図屏風』(写真上)では梅の木も流線的なフォルムが採用され、その線は柔らかく伸びやかだ。温かな春の明るい日差しを受けて、いかにもおっとりとして雅やか。


 晴れやかなまでに豪奢な光琳の作に対して、抱一の白梅にはストイックなまでの寂寥感さえ漂う。観る角度に依って、差す光の加減でその輝きと色とを変える木肌のたらし込み部分のエメラルドが、えも云われぬほど美しい。

 光琳が光なら、自分は陰。光琳が太陽なら、自分は月。

 自らの暮らした時代から100年遡った世に生きた光琳を私淑し、彼の作品を評価して日本初とも云える回顧展を企画し、光琳百図と云うカタログまで作成して再び世に出した抱一。一見、あまりに対照的な二人の梅図屏風でありながら、光琳の画風を慕い、そっと表裏に寄り添うかの様に控え目な抱一の白梅。


 銀色の月夜に、どこからともなくほのかに香る梅の花。

 この白梅図屏風の銀色の輝き、美しさは、実際に本物を目の前にしなければ、到底理解出来ないだろう。ずっとずっと眺め続けていたかったなぁ。





出光_抱一紅白梅図屏風_紅梅.jpg

※(注)
今回、僕は抱一の『紅白梅図屏風』の内、白梅屏風のみについての感想をここで述べていますが、題に紅白とあるように、この銀屏風には対となる紅梅屏風も在り、今回も同時に展示されていました。白梅が若木で、紅梅は古木。それぞれが対照的な性格付けを与えられています。銀が酸化し、くすんで紅色がやや黒っぽくなっているところもまた、枯淡な味わいがありますね。こちらも、残念ながら図録の写真ではその真価をまるで伝えられない気がします。次の展示はもう来年なのかなぁ・・・。今からだとまた、随分と気の長い話です(^^;。





おまけの追記)

100215_池上梅園.JPG
(2月15日撮影)

 別件ですぐ近くまで行ったので、物は序でと、第二京浜の池上本門寺入り口すぐそばに在る池上梅園へ、梅の咲き具合を確認しに立ち寄ってみました。が・・・、降りしきる冷たい雨で手がかじかむ程だったし、足元も悪く、15分くらい園内を歩いてみただけで早々に撤退(^^;。まぁ、この日は下見ってことで。元より下手なんだから、傘を片手にカメラを構えてもまともな写真なんて撮れるハズありませんしね(苦笑)。

 梅は6分咲き程度、と云ったところでしょうか。帰り際、事務所の方と少し話をしましたが、暖かな日が2日くらい続けば、もう見頃になるでしょう、とのこと。

 それにしても、クルマがばんばん行き交う、それこそ日本の中でも屈指の交通量を誇るだろう第2京浜(国道1号線)をほんの20~30メートル脇に入っただけの場所に、小さいながらもこんな立派な梅園が在ったとは、全く知りませんでした。ここなら家からもそう遠くないし、すぐ目の前に駐車場もあって便利です。今度は時間のある、好く晴れて暖かな日にゆっくり再訪する予定。




池上梅園公園の開花状況はこちらから確認出来ます → http://www.city.ota.tokyo.jp/omori/oshirase_event/baien_kaikajyoho/index.html


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コメント 15

pace

梅は日本人にとって特別なモノなのでしょう
破天荒であることを許される桜とかとは違う、様式美を要求される
観念としての梅に近づける努力がありますよね
梅で力量がはかれるのは、その様式の内でありながらも斬新であること
その不自由の中でも己の自由をどう表現するのかに掛かっているような気がします
by pace (2010-02-14 15:07) 

pistacci

前々記事のコメントを読んで、私も見に行ってました。琳派展のとき、自分の記事にもすきだって書いていたので・・(^^;
紅白ならんで展示されると紅梅のくすみがちょっと残念でしたね。。
近寄ってみると芯のあたりにはまだ紅の鮮やかな部分が見出されていて、変色する前はさぞや見ごたえがあっただろうと思いました。
枝先などは筆をすっと抜いたふうな描き方なのに、幹の感じはより リアル。
また見られて、よかったです。ありがとう♪
by pistacci (2010-02-14 22:57) 

mami

ご丁寧にリンクいただき、ありがとうございました。

私も紅梅より白梅の清楚な感じが素敵だなあと思いました。枝に咲いた花がぷっくらと量感があるところも、触りたいくらい可愛かったですね。

「うつわ展」なのに、入り口近くにこれをど~んと飾ってしまうなんて、出光美術館の所蔵品はすごいですね。その上、チラシにもHPにもこの絵のことは全然宣伝してないなんて、ちょっともったいなさ過ぎ。14日までの展示とわかったのも偶然だったんですよ。間に合ってご覧になれて良かったです。


by mami (2010-02-15 00:03) 

TaekoLovesParis

私も、yk2さん情報で、14日までと知りました。
3回も行った「大琳派展」で、光琳のも、抱一のも見てるのに、おぼろげな記憶
しかありませんでした。今、考えると、あの時は、抱一の銀地に緑がきれいな
「夏秋草図屏風」や「楓の青・赤屏風」、光琳の「槙の屏風」など、緑に赤の対比に惹かれてました。白梅は地味な印象だったんですね。

でも実際に、梅の季節に見ると、ぜんぜん違いますね。身近ですよね。
実際にすこぶる枝ぶりのいい梅の木を鑑賞している気分でした。
座って見れたので目の位置がちょうどよかったのかもしれません。
白い花には立体感があり、枝は筆でさっとひいたかのようで、たらしこみが
みごとなアクセント、それらが銀箔に浮かびあがり、静謐感が漂ってました。
引き込まれてしまいますね。

光琳の金地に紅白の梅の花2本は、立派な木でしたね。少し前後の関係に並んで、舞っているかのようにも見えました。
とってもいい鑑賞経験をしました。ありがとう。
by TaekoLovesParis (2010-02-15 01:08) 

Inatimy

梅の木の枝のはり方は、絵になりますね~。
桜切るバカ、梅切らぬバカ・・・って、母が昔言ってたな。
切るからまた味わいのある枝の表情になるのかしら。
オランダだったら、真っ直ぐ伸びる巨大なポプラの並木の屏風が出来てたかも・・・。
あ、チューリップの屏風のほうが可愛くていいかな。
燕子花の屏風みたいに並んで咲いて♪
by Inatimy (2010-02-18 07:23) 

hatsu

梅、いいですょね。
最近、梅の鉢植えをいただきました。
小さい子ですが、
姿を見ているだけで、心に響くものがあります^^
by hatsu (2010-02-18 14:22) 

micky

梅の枝振りが素晴らしいですね。
写生して描いたのかしら?
紅白と対になるから、目に強く訴えますね。
桜は、ひといろですから。

by micky (2010-02-18 20:57) 

yk2

みなさま、nice!&コメントいただき、ありがとうございます。

◆paceさん :

ふふふ、paceさんの下さる御題はいつもさり気なく難しいなぁ~(笑)。

梅と桜に見る日本人の芸術表現の様式比較(?)ですか。
云われてみれば、確かに桜は絵画に限らす破天荒なイメージが与えられる場合がありますね。あまりに爛漫に咲くから、「狂い咲き」なんて言葉も与えられるし。
対して梅は、春を一番に告げる吉祥。厳しい冬を乗り越える健気さや、やはり清楚でしとやか、もしくは道真公に寄り添う無垢で従順なイメージが昔からの「日本的」なるものなんでしょうね。
その確固とした限定的な枠があるから、型破りな自己表現が難しいと。

でも、たとえば道成寺だって桜だからこそ、の狂気ですもんね。狂おしいほどの梅ってなんだかイメージ涌きませんもの(笑)。


◆pistaさん :

え~、まさか同じ11日に観に行かれてました?。もしかして、同じ時間に同じく出光美術館に・・・。一目見て、明らかにシロガネーゼだろう(もしくは謎の美人探偵風な・・・笑)女性はいらしたかしらん?と記憶を思いっきり辿ってます~(^^。

そうそう、この梅を大琳派展で観た時はpistaさんのトコで結構盛り上がってましたものね。紅のくすみは確かに元の色ではないでしょうが、それもこれも本物の銀だから。僕はあの色も古木らしくて嫌いでないです。でも、紅梅が若木の設定でなくて好かったね、って(^^;。


◆mamiさま :

mamiさんに情報頂いたお陰で、出光美術館は僕も含めて3人ばかり抱一目当てのお客さんが増えていたようです(笑)。

僕は今回初めて出光美術館へ行ったんですけど、先の三井記念美術館に劣らず落ち着いた雰囲気で、とても良い美術館ですね。じっくり鑑賞して、ちょっと疲れたら窓から皇居の緑を眺めながらお茶頂いて、また素晴らしい器の数々や屏風を心ゆくまで観ていられるんですから。

ただ、それでも告知に関してはもうちょっと来場者目線で分かりやすくして欲しいものですよねぇ(苦笑)。

by yk2 (2010-02-18 23:13) 

yk2

◆taekoねーさん :

お互い観られて良かった良かった(笑)。
まさかね、あんなふうに屏風の前に背もたれのないソファーみたいな長椅子が置かれていて、座って心ゆくまで・・・って状況は想像してませんでしたから、あの見せ方は嬉しかったですねぇ。確かに、座って眺めると枝振りがまた違って感じますものね。出来たら、同じ床の高さで、それも畳に座って眺めてみたいけれど(^^;。

大琳派展は、あれ?、僕は何回観たんだっけかな??(苦笑)。
確かにあの時は、何処を見ても何を観てもお宝ばかりで大感激。抱一の梅ばかりに気を取られているわけにもいきませんでしたよねぇ(^^;。
掛け軸や屏風って、やっぱり観る季節も大事ですね。梅はやはりこの時季に見てこそ、と改めて感じました。
by yk2 (2010-02-18 23:25) 

pistacci

柱の影に、いました。

・・・なーんて(笑)。11日は寒かったでしょ?どこにもいかずウチにこもってました。翌日の昼休みにちょっと行きましたが、平日なのに、結構混んでましたよ。
紅梅の色のくすみもそうですが、、器。
波山の色がとっても気に入ったのですが、同時に、『洗いたいっ!』と、痛切に思いました。陶器なんだから、せめて水拭きとか、やっぱりだめなんでしょうかね。古いから仕方ないとはいえ、なんとも汚れが気になって気になって、仕方なかったのでした。
by pistacci (2010-02-19 23:14) 

yk2

◆Inatimyさん :

梅は切るから・・・確かにそうかも。
住宅街で見掛ける様な梅を見てもあんまり気付かないけど、お寺とか梅園や梅農園には独特のフォルムした樹が在って、あ~、これはまさに日本画の中の梅の古木と同じだなぁと思いますね。

>オランダだったら、真っ直ぐ伸びる巨大なポプラの並木の屏風が出来てたかも

あはは。エッシャーがもう少しジャポニスムに興味を持ってくれてたら、騙し絵でポプラと鯉の屏風なんて制作してたかもね(笑)。実際、意外と面白いんじゃない?。


◆hatsuさん :

小さい鉢植えでも、きっと梅の好い香りがするでしょう?。
いなちみさんちのチューリップみたいに華やかじゃないかもしれないけど、梅は梅で可憐で好いですよね。大事に育てて、毎年春待ちの楽しみになるといいですね。

そういや、そろそろ暖かくなってくれるみたいだから、三渓園の梅も見頃でしょうね。

◆mickyさま :

抱一は琳派的なフォルムの簡略化や省略も用いた反面、かなり細密な写実表現で花や鳥を描いている作品もありますので、この紅白梅図屏風も写生して描いた可能性もあるのでしょうね。元より俳句好きな人ですから、植物観察は決して嫌いじゃなかったでしょうし(^^。

明日は予報も好いみたいだし、僕も梅を見に行って来ようかな。
mickyさんの記事を見せて頂いてたら、僕も晴れた青い空の下で梅の写真が撮りたくなってしまいました。ここのところ、お天気悪かったですからねぇ(^^;。
by yk2 (2010-02-19 23:35) 

yk2

◆pistaさん :

え~、柱の陰に~!・・・じゃなかったのですね。
なーんだ、つまんないな~。
僕は閉館までいたから、おんなじだったらきっと分かりやすかったのにねぇ(笑)。
まぁ、確かにあの日は冷たい雨で、僕も何も用事が無ければ家から出なかったことでしょう(^^;。

波山の器はアールデコふうの紋様付けがいかにも大正ロマンらしくて、淡いブルーとピンクの色合いも綺麗だったなぁ・・・って好い印象しかなかったけど、そんなに『洗いたいっ!』のがありましたか(笑)。気が付かなかったなぁ~(^^;。

そういや確かに、これらのお宝、お手入れってどうしてるんでしょうね?。から拭きくらいは時々するのかな??。間違えて落としたりして割れると困るから、それもなし???。
by yk2 (2010-02-19 23:54) 

TaekoLovesParis

いつのまにか、「おまけの追記」がついてたんですね。
したたりそうな雨粒をうけた梅の花、枝越しには冷たい銀色の空。
抱一の銀屏風と同じ静かな銀色の世界ですね。もしや狙った写真?

池上の梅園は、梅の木がたくさんで、梅の畑。
私も数年前に行ったとき、雨の翌日で、地面がぬかるんでいる所があって、滑らないように気をつけて歩きました。都内で、ぬかるみは珍しいですよね。
そういえば、人が誰もいなくて、とても静かでした。きっと、あまり宣伝してないんですね。
by TaekoLovesParis (2010-02-25 22:37) 

yk2

taekoねーさん、こんにちは。

そう、コソコソ内緒でおまけ付けてました(^^;。

>抱一の銀屏風と同じ静かな銀色の世界ですね。もしや狙った写真?

一応、雨中の梅も悪くないかなと思いカメラ向けてみたんですが、結構レンズに雨が降り込んでしまって上手くいきませんでしたねぇ。好い具合の雨垂れを探したり待つ気持の余裕もありませんでしたし・・・(苦笑)。まぁ、銀色の世界の気分、ほんの少しくらいは出てるでしょうか?(^^;。

そう云えば、池上は近くにねーさんの叔父上様がお住まいだった場所ですよね。
だから池上梅園の辺りもすっごくよく知ってるワ、って書きっぷりですね(笑)。
ず~っと以前に、馬込までわざわざクルマでルネ・ジョリのロゼを買いに行ったけど、お店がもう既に無かった・・・ってどこかで書いたら、そんなふうにコメントして下さいましたよね。まだLahiriちゃんがSo-netでblogやってたような頃の、なんだかもう随分懐かしい話ですが(笑)。
by yk2 (2010-02-28 12:32) 

TaekoLovesParis

お返事いただき、ありがとうございます。
あのね、池上本門寺のGoogle地図を見たとたん、「お~!」。だって、この
地図内に伯父の家。祖母の家でもあったので、小さい時から馴染みの場所。
先月も車がバンバンの第二京浜を通って行ってきました。
Lahiriさんは、私のSo-netでの初めてのお友達。こうやってblogを続けて
るのも、いいスタートだったから、って、Lahiriさんに感謝してます。
by TaekoLovesParis (2010-03-01 00:12) 

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