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スコットランド国立美術館展を観る(その2) [ART]

スコットランド国立美術館展を観る(その1)より続く

 今回、特に印象に残った作品を集めてみました。


(①・・・エドガー・ドガ / 「開演前」1896~98年頃 油彩)

 プーシキン展にもドガ「写真スタジオでポーズする踊り子」という絵が有りました。あちらはしっかり人だかりが出来ていましたが、こちらは僕の貸し切り状態(^^。ハッキリ云ってあちらより、こっちのが絶対に好き。色遣いが他のドガの踊り子とは随分違うね、なんて友達と話しながら鑑賞。ドガの描く踊り子の女性像は可憐で繊細であり美しいですね。パトロン云々の話はさておき。



(②・・・アーサー・メルヴィル / 「東方の情景」 水彩)

 スコットランドの画家って僕はほとんど知らなくて、今回初めて名前を知った人ばかりなんですが、その中でもメルヴィルという人のこの絵、本当にゾクゾク来ました!。おそらくは東方と言ってもアフリカあたりの情景なのでしょうが、エスニックな色合いの美しさ、タッチにもう惚れ惚れ!!。水彩画特有の淡さ、絵の具の滲み、人のシルエット、マントの女性のテキスタイル感、ロバの装具、全てが驚き。完全に一目惚れです。もっと他の作品も観てみたいな。



(③・・・ウイリアム・マクタガート / 「海辺で水遊びをする子供たち」 1877年 水彩)

 こちらもスコットランドの画家でマクタガート。僕が無知なだけで近代のスコットランド画壇では傑出した存在だそうです。船から釣り糸を垂らす少年達の真剣な表情も微笑ましい油彩作品、「魚を釣る子供たち」も好きな絵だなぁと思ったのですが、水彩で描かれたこちらの「海辺で水遊びをする子供たち」も素敵な作品でした。
 この絵は、きっとCRTや液晶ディスプレイで見てもなんとも思われない、ただ単に海で遊ぶ子供たちのものと思われるでしょうが、波が子供たちの体を透かして描かれていて、実物はちょっと不思議な映像効果を醸し出しています。彼女たちは描かれた時は既にもうそこには居なかった、まるで追憶の中にのみ存在しているかのように、淡く描かれているのです。



(④・・・デイヴィッド・ヤング・キャメロン / 「青白い光」 1905年頃 水彩)

 僕は、子供の頃から自分が上手く書けなかったせいもあって、あまり風景画は好まないタチ(苦笑)のようなんですが、この絵の放つ「青白い光」にはすっかり取り込まれてしまいました。間近に寄るまで水彩画だと気が付かなかったこの絵は、水面と木々の明暗のコントラストが神秘的。描かれたスコットランドの原風景の神々しさに、思わず自然崇拝の気持さえ浮かんで来ました。

 何の作為もなく当日気に入った絵を並べてみただけなのですが、スコットランドの画家の4作品中3作品が水彩ですね。自分でも後から気が付きました(^^。



(⑤・・・ロバート・ゲルム・ハッチソン / 「苺とクリーム」 油彩)

 ハッチソンもスコットランドを代表する画家で、解説によると当初は同年代の同胞であるマクタガート(上記③)の影響を大きく受けた画風だったそうです。この絵もマクタガートの好んで描いたスコットランド東海岸を訪れて、地元の子供たちをモデルに描いた作品で、言われてみれば確かに彼らの作品には共通する雰囲気が幾つか感じられます。
 右のピンクの女の子が、手元の苺をじっと見つめる様が何とも愛らしくて、繰り返し何度も絵の前を訪れました。ただ、手前の野に描かれた色と彼女たちの素足には暖かさを思うのですが、背景に使われた真白と海のあまりの蒼さに戸惑ってしまいました。まだ雪が残ってるほどに寒い季節なのでは?とも思えちゃったんです。風もなんだか冷たそう。おそらくこの白は海岸の砂の色なんだろうとは考えますが、僕には少々季節感が掴みにくい絵ではありました(^^;。しかし、それも噛んで含めてお気に入り。



(⑥・・・ジュール・バスティアン=ルパージュ / 「お手上げだ」 1882年 油彩)

 へへへ。コイツ~って、ちょこんとおでこを指で突っついてやりたくなりませんか(笑)。等身大で描かれたちょっとおナマなこの男の子は、まるで本当に存在しているかの如く、生き生きとこちらを見つめ返してきます。ポケットに片手を突っ込んで、もう片方には鞭。ちょっと首をかしげて大人びたポーズ。そのくせ、丈の短いパンツに誰かのお古のような大きい靴。
 解説書に拠ると、彼は艀(はしけ=波止場と本船との間を往復して、旅客・貨物を運ぶ小舟のこと)の船員で、右手の鞭は使役馬を追い立てるためのもので、背中のブリキの角笛は水門番への合図の為の立派な仕事道具。彼は大人に混じって仕事をするうち、誰かが喋るのを真似てこんな言葉を口にするようになったんでしょうね。‘Pas Meche’お手上げだよ!だなんて。


 ここに気になったもの全ては載せきれませんが、当然にスコットランドの豊かな自然を描いた、深い緑が題材の作品も多数展示されています。加えて、ルノワール「子供に乳を飲ませる女性」、展覧会チケットにも登場しているヒュー・キャメロン「キンポウゲとヒナギク(画家の娘)」ジェームス・アーチャー「夏のひととき、グラスターシャー州」モリゾ「庭にいる女と子供」など、子供を画題にしている作品が多く目に付いたこともあって、緑と愛らしさに溢れた、なんとも優しく穏やかな気持ちにさせて貰える展覧会でした。
 マティスやゴッホの在るプーシキン展と比せば確かに地味な印象もありますが、僕は観に行ってとっても良かったと思っています。

 いつかまた必ず、「お手上げだ」の少年に出会いたいな。

(会期12月25日日曜日まで)


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コメント 8

ゆー。

こんばんは。
僕は印象派のようなぼんやりした輪郭の絵画でなく、しっかりとした描写の16世紀~17世紀頃の貴族が絵画師に画かせたような自画像の写実主義的な絵が好きです。
これが、なかなか日本には来ないんだなぁ。
クールベとか好きなんですが、一部の有名な絵ばかりで、小品は来ませんものね。
上野もしばらく行ってないなぁ。たまには、行ってみるとサプライズがあるかも?
by ゆー。 (2005-12-14 01:29) 

plot

「お手上げだ」とてもいい絵ですね。
フィレンツェにいると1400年代、1500年代の絵を観る事に忙しくて(数が多いので)近代の絵まで意識が働かない状態だったのですが、最近は知人のコレクターの影響で19世紀フィレンツェのMacchiaioli(染み=点描派)の画家達の作品も観るようになりました。日本ではあまり紹介されていないようですが、フランスの印象派とは違った感性で面白いです。いつかblogでご紹介したいと思います。それからLINKしてくれてありがとう!(RSSの仕組み良く分かってないのですがこちらで何かすると「うまく対応」できるようになりますか?)
by plot (2005-12-14 08:27) 

yk2

ゆー。さん、こんばんは。

貴族階級がお金で書かせた肖像画はともかく、写実主義は好きです。上の写真⑥のルパージュも写実主義に入れられる人らしいです。オルセーでも、印象派が多くまとめられた階ではなく、確か1階とか下の方のフロアに作品があった記憶があります。クールベはちょっとテーマが重かったりするけど、決して嫌いじゃありませんよ。渋いトコ言いますね(笑)。

このスコットランド国立美術館展は、たまたま僕が選んだ絵が印象派&印象派的なだけであって、他のフランス絵画の内、特に風景画などは写実主義的な作品が幾点もありましたから、もし気が向いたら渋谷へ足を運んでみて下さい。とっても良い展覧会だと思いますよ~。
by yk2 (2005-12-14 22:47) 

yk2

plotさん、こんばんは。

そうですよね~、街中美術館みたいな場所ですものね、フィレンツェは。僕には宗教画や貴族肖像は特徴が捉えづらくて、ウフィッツィーで観たものの記憶がだいぶ薄れて来ちゃってます。食べて飲んでばかりじゃなく、また観に行かなくちゃなぁ・・・(苦笑)。

LINKの件はこちらこそ、です。コメントこそしてませんが、毎々とても楽しみに読んでいます。今回のお話のトリッパの屋台、次回は絶対に行く気でいますから(笑)。白いポレンタもとっても気になるし。<トウモロコシ自体が白いんでしょうね?

「読者になる(RSSに登録)」ボタンをクリックすれば普通は「読んでるブログ」に登録されるのに、plotさんのblogはダメだったんですよねぇ。同じくSo-netなのにどうしてでしょう???。僕にはちょっと分からないのです。So-netさんのユーザー対応の方に訊かなきゃダメかも・・・。
by yk2 (2005-12-14 23:03) 

plot

RSSの件は、何だか難しそうですね。前回RSSに登録出来たサイトを削除してから入れ直そうとしたらダメでした。フロントページの重さとかも影響するのでしょうか。反応に時間がかかり過ぎるとダメとか。
白いポレンタ、初めて出会ったのですが、「より柔らかく(morbido)で、風味、味わい豊か(saporito)」と説明してくれました。トウモロコシ自体が白いのか、皮を除いてから粉にするからか、いまのところ真相不明です。トリッパ(最近はもっぱらランプレドットのほうにはまっていますが)の屋台で飲む若いキアンティもいけます。
by plot (2005-12-15 02:35) 

yk2

plotさん、こんばんは。
Blogとホームページのトップページの相関関係はそれ自体、お互いにリンクしているだけなのでRSSにはあんまり影響しないと思いますよ。イタリアだからかな?(笑)。

ポレンタも食べたいのに、僕が行くような店では最近あんまり見ないメニューです。時々思い出したように、無性に揚げポレンタが食べたくなるんですが・・・。
plotさんのコメントに返信させて頂いてると、いろいろ思い出しておなかが減って困ります(笑)。
by yk2 (2005-12-15 23:58) 

TaekoLovesParis

バスティアン・ルパージュの少年の絵は、「お手上げだ」というタイトル
なんですね。ルパージュについての記事を書いたので、ここにリンク
させていただきました。
by TaekoLovesParis (2007-11-22 01:26) 

yk2

taekoさん、おはよーございます。
ちょっと体調を崩して(二日酔いではない・・・汗)、昨日は早くから休んでしまったのでこんな時間ですみません。風邪を引いたらしくて背中やら肩やら関節が痛くて・・・。

なーんで今頃ルパージュなのかなぁ~?って思ったら、オルセーでルパージュ展をご覧になっておられたのですね。彼は30歳半ばで夭折してしまったので作品があまり多くないのかな?。早くから売れた画家なのに、作品を目にする事がとても少ないですね。オルセーだからこそ、作品をかき集められて出来た企画展なんでしょう。

ところでこのページ、自分でも久々に開けましたが今見てもとても好きな作品ばかり。スコットランド国美展は良い展覧会でしたね。
by yk2 (2007-11-23 05:01) 

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