LOUVRE LOUVRE@東京藝大美術館 [ART]
7月15日(土曜日)
空が俄にどんよりと曇って、今にも泣き出しそうな午後。雨が降り出す前に、と慌てて家を出た。この日は友人と上野の東京藝大美術館で開催されているルーヴル美術館展を観るって約束なのだ。
ああぁ、それなのに北の空は真っ暗で、遠くでは雷も鳴っている。
家から駅に着くまではポツリポツリ。時折落ちて来る雨粒を感じる程度で済んだけど、東横線が多摩川に差し掛かろうとする頃にはバケツをひっくり返した様な勢いで雨が降り出した。見事なまでに立派な土砂降り。
ところが銀座線を降りて上野の地上に出てみると、ラッキーなことに雨は上がっていた。よかったよかった。それと云うのも、藝大美術館は上野の駅からは多少歩かなくてはならないから、さっきまでみたいな土砂降りの雨だったらちょっと気持ちがめげちゃいそう。どこかでお茶でも飲んで、雨が弱くなるまで待とうか、なんて考えていたのだ。
薄日さえ差し始める中、西洋美術館前から都美術館方面へ公園を通り抜けること数分、季節が良ければ丁度良い散歩の距離かも知れないけど、雨上がりでかなり蒸し暑い。汗を拭きつつ藝大美術館に到着。場所は知っていたけど入るのは初めてだ。そんなに混んではいないと聞いていたのに入場は予想外の10分待ち。ま、それくらいは仕方ないのかな。
それにしても何という湿気だろう。霧吹きで吹いたように汗が滲んで来る。じっとりと、まるでサウナに入っているみたいだ。列を作って並んでいるせいで人肌の熱気も近いし・・・。これにはかなり参ってしまった。扇子を持っているご婦人方がひたすらに羨ましい。夏場の美術館の入場待ちには風を仰げるものは必携だなぁ。
入場前にどっと疲れてしまったような気もしないでもないけれど、暫しの後にようやく入場。エアコンが効いた館内は本当にしみじみ、天国のようだった(苦笑)。
今回の展覧会は「古代ギリシア芸術・神々の遺産」と副題が添えられているくらいなので、僕にとっては本来なら興味の外。悲しいかな、神話や古代史の知識が殆ど無いのでどうにもピンと来ない部分なのだ。
それでも3月に訪れたパリのルーヴルにたった2時間半しか居られなかったことを思い返すと、どうにも悔しくて、たとえ元からの興味は薄くても、観れば何かしら自分なりの愉しみが見つかるかも知れないと思っていた。それに今回観ておければ、以降もし再びルーヴルを訪れることが有ったとしても古代ギリシアは悔いなくスッパリ端折れるかなぁ、なんて思ったりもして。だってあんなにも大きい美術館なんですから、そのくらいの気持ちでいないと観切れないでしょ、あそこは(^^ゞ。
以下はパンフレットにあった代表的な出展作品を使った自分用のおさらい。
<ボルゲーゼのアレス>
紀元前1世紀あるいは1世紀(原作:前420年頃)
ボルケーゼと云うのはローマの大美術蒐集家の名で、このアレスもかのナポレオンが1807年に他の約550点もの作品とともにボルケーゼ家より購入したものなのだそうだ。
アレスとはゼウスとその正妻ヘラとの間の子で、戦いの神。ローマ神話ではマルスにあたりヴィーナスの愛人。・・・と云われてもこの辺りはよっぽど詳しくないと解りにくい。会場には神話に登場する神々の系譜図などもあったのだけど、にわか仕込みではとても覚えられないよね・・・(苦笑)。
この作品には元々原作が在って、それは紀元前5世紀後半にアテネで活躍したアルカメネス作のブロンズ像と推定されているんだそう。解説に依ると「頭には兜をかぶり、手には武具を持っていたと推定されるが、鎧で身を固めた姿ではなく裸体で表現されたこのアレスは、軍神としての堂々たる体躯を見せながら、物憂げに右下に視線を落とすポーズから、ヴィーナスを想う、あるいは、ヴィーナスに寄り添う軍神アレスの姿」と解釈されているらしい。
彼の物憂げな視線の先にはどんなに美しいヴィーナスが映っていたんだろう・・・。
そんなふうに考え始めると、厳めしい「戦いの神」が妙に人間くさい一人の男として思えて来るから面白い。
<アテナ・パルテノス>
1世紀あるいは2世紀(原作:前438年)
通称、「首飾りをつけたミネルヴァ」。
この2メートルの大理石像にも原作があって、それはアテネ・アクロポリスの丘のパルテノン神殿に設置されていたアテナ・パルテノス像。上のアレス同様ボルゲーゼ家のコレクションから1807年にナポレオンが購入した作品の内のひとつだそうだ。
原作は驚くなかれ、黄金と象牙で作られた高さ約12m!の立像であったそう。残念なことに、「5世紀にパルテノン神殿がキリスト教会堂に改装された際におそらくコンスタンティノポリスに運ばれて、その後の消息は不明」なんだそう。イエス以前の神話の世界のものだから処分されちゃったのだろうか?。どうもこの手のハナシはダ・ヴィンチ・コードを思い出さずにはいられないワタクシです(苦笑)。
因みにこの像、正面からの写真では判らないが、側面から観ると肩に腕を差し込んでいたパーツ穴が開いている。豪華に遣い散らかしているようでもその実、大理石の節約の為に各部位は別々に作られていたのだそうだ。思いの外合理的だったワケね、昔の人々も(笑)。
切りがないのでblogでの復習はこのぐらいにしておくけれど、やっぱりギリシアの神話にまつわる美術品はそちらの知識がないと今ひとつピンと来ない。ストーリーを知っていて作品を観るのと、何も知らないでただ眺めるのとでは大違いだ。でもそっちを覚えるのもなかなか骨が折れそうで、どうにも腰が重いのが正直なところ。
でもこれって、絵を観る時でも結構ぶち当たる問題なんだよなぁ。
例えばマティスの「エウロペの掠奪」だって神話のストーリーを聞かされなかったら、牛に寄りかかって寝そべる裸婦・・・って、まるで意味の分からないヘンチクリンなテーマだもんね(^^;。
こちらが昨年のBunkamuraで開催されたギュスターヴ・モロー展で観て印象深かった、正統派(?)のエウロペ。この2枚の絵が同じテーマで描かれているとは、とてもじゃないけど知らなきゃそうとは思えないよね(笑)。
※因みにモローとマティスはそれぞれの画風からは全く及びもつかないのだが、師と弟子の関係にあった。但し、モローが教授として教鞭を執っていた国立美術学校にはマティスは不合格で入学出来ず、合格した親友のルオーを介してマティスがモローに教えを乞うたもの。
エウロペをここで話に出したのは、今回のルーヴル展にも石彫(ちと不確かかも・・・汗)の小品が1つあったから。やっぱり知らない話ばかりの中で知ったモチーフがふっと出てくるとホッっとするし、その作品に対する見方、親しみもまた違って来るものだ。だから、もっと神話を知ってさえいれば、ギリシア芸術も更に深く楽しめるんだろうになぁ。
絵画が殆ど無い、彫刻と陶器やレリーフばかりのこのルーヴル展。ちょっと僕には消化不良な展覧会だったかも知れない。でも、決してつまらなかったってワケじゃないから、今までよりは多少興味の取っ掛かりを掴みかけてるかも知れない。
もう一押し、何か神話や歴史の本でも読んでみようかな。
yk2さん、おはようございます。
芸大らしい品揃えだな、と思いました。
石膏デッサンは伝統的な芸大の受験科目。こういうギリシア彫刻のブルータス、ヘルメス、マルス(軍神)、アグリッパなどの頭部が使われます。
白単色でバランスのとれた形だから、線で形を表現することや明暗の変化
が学べるので、最適のデッサン教材なのだそうです。
ピカソもデッサンの名手だったといわれているように、絵はデッサンが基本
で、それができてないとどこかでつまずくと言われてます。
でも、ギリシア神話の神々ってすごくたくさんいて、有名どころしか知らない
から、私も「これは誰?」「アグリッパ」「アグリッパって何の神様?」
「知らないけど、有名なんだよ」「ふ~ん」で終っています。
「アテナ・パルテノス」、凛として、きれいですね~。
服のドレープ(ひだ)の立体感が特に美しいなぁと思って。。。
原作12mって、とてつもない大きさ。
エウロペ、知らなかったです。同じテーマが解釈によって全く違う作品に
なって、、興味しんしん。いろんなこと知ってると余計に鑑賞が楽しく
なってきますよね。
yk2さんの芸大美術館へ行くまでのプロセスが、上手にレポートされて
いて、東横線から見る多摩川、上野の森の道が浮かんできました。
土曜の夕立は1時間くらい続きましたものね。
by TaekoLovesParis (2006-07-25 08:27)
taekoさん、こんばんは。
石膏デッサンが基本だから・・・って、云われるまで思い至りませんでした。
そっか~、如何にも藝大的なセレクトだったのですね(笑)。
taekoさんも絵を勉強していたのかな?。
アテナ・パルテノスの着衣のドレープは僕もよ~く見てきましたよ。ドレープっていうよりデザイン的なプリーツかな、って云うくらい丁寧に入ってましたね。
エウロペ、taekoさんでも知らない事があるんですね~、ってLahiriさんなら喜んじゃうところかな?(笑)。
この牛はゼウスの変身で、エウロペを見そめたゼウスは、彼女に悟られぬよう近づく為に白い牛に変身してギリシアのクレタ島へ連れ去った、ってストーリーなんです。で、連れ去られたその時に通ったルートがeurope=ヨーロッパの語源となった、ってコトらしいです。でも僕もこのお話しか知らないんですけどね(^^ゞ。
by yk2 (2006-07-25 23:14)
こんにちは。
昨日ようやく「ダヴィンチコード」を観てきたんです(笑)
でもルーヴル美術館のシーンは思ったほど多くなかったですね。
私は彫刻についてはほとんど何もわかりませんが・・・
>ストーリーを知っていて作品を観るのと、何も知らないでただ眺めるのとでは大違い
というのはナルホドです。美術に限らなくてもそう思うことって沢山ありますもんね。yk2さまの説明を読みながら観てみると、彫刻の不思議な存在感を感じたような気がして楽しかったです。
私も機会があったら神話の本など読んでみようかな。
by シェリー (2006-07-26 13:01)
シェリーさん、こんばんは。
確かに思ったほどはルーヴルのシーンは多くなかったですね。本だと冒頭から随分字数が割かれてましたから、長いこと美術館内に居るような気分がしてましたけど、映画は盗聴器とかの行を全く描いてないので、館長室などその後のルーヴルは一切出る幕がなかったですものね。
ギリシア神話は詳しい方はほんと詳しいけど、僕はギリシアとローマがごっちゃごちゃになってとても覚える気になれません。でもお酒呑みなので、せめて酒の神・バッカスのお話くらいは知ってなきゃいけないのかな~なんて思ったりもする今日この頃です・・・(^^;。
by yk2 (2006-07-26 23:33)