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クールな奴はjazzが好き [思ったこと感じたこと]

 今回は少々思うところ有って、現在のこのblog、“Hearts and Numbers”を始める以前、今から4年近くも前に音楽の話題のみを取り上げるつもりで始めた『jazzっぽいの、好き?』と云う僕にとっての最初のblogから、ごくごく初期の頃にを書いた話を再掲載したいと思います。今改めて読み返して、自分でも言葉足らずで少し分かり難かったかなと思える箇所を幾つか直しましたが、ほぼそのままの内容のものです。


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 僕はjazzが好きだ。でも、jazzに詳しくなんかはない。

 トラディショナルでもビ・バップでもコンテンポラリでも、自分が興味を惹かれ、聴きたいと思ったものを他人の評価にとらわれず自由に聴きたいだけ。だから正直に云ってしまうと、知識ばかり詰め込んでいる頭でっかちなガチガチのjazzマニアの人とjazzの話をするのが、とっても苦手だったりする。




 こんな人と運悪くBARのカウンターで並んでしまったことがある。

 自分がアナログプレーヤーの無い店で飲んでいるのを初めから承知して居ながら、「この盤はやっぱりヴィニールじゃなきゃ音が薄っぺらくていけないね。CDにはアナログのノイズから伝わるライブの空気が何も感じられないよ。」なんて、したり顔して言い放つ。この無神経な評論家さんには、繊細にもレコードから伝わるライブの空気は手に取る様に感じ取れるそうなのだが、もっと簡単に伝わっても良さそうな、今現在自分がいる店の空気や周囲の客のシラけ具合はちっとも伝わらないのが何とも摩訶不思議なところだ。

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 そんな人は往々にして自分がカテゴライズするところのjazz以外はあまりお好みでなかったりするから、こちらも相当遣り辛い。簡単に云えば、自分が好むもの以外は全く認めて下さらない。未だにパット・メセニーをして「ああ、フュージョンの人ね」なんて、見下した言い方しているのを見たりした日には、こんな了見の狭いおっさんがいるからjazzはカビくさいなんて言われるんだよ!、などと心の中で思いっきり毒づいてやりたくなるのだ。

 マイルスやエヴァンスがjazzなのは世間様では至極当たり前なハナシなのかも知れないが、パットやジョン・スコフィールドだって僕には当たり前にjazzだ。Fusionと云うジャンルの代名詞の様なギタリストのリー・リトナーだって、335をL5※(1)に持ち替え“4 on 6”※(2)をプレイすれば、彼の音楽は忽ちjazzへと変わる。もっと極論させちゃえば、僕のお気に入りのフライド・プライドの二人がハード・ロックの権化のようなディープパープルの“SMOKE ON THE WATER”を奏ってるのだって立派に、いや、絶対にカッコいいjazzだと僕は思う。




 好き嫌いは誰にでも有る。だから否定はしない。

 でも、自分の趣味や聴き方を人に強要するのは頂けない。例えば、チャーリー・パーカーが薬漬けだったのを知らないで彼のレコードに夢中になってる人が居たって、それはそれでいいじゃないか。確かに、そのミュージシャンの生き方を知るのも音楽を楽しむ1つの方法だろう。だけど、もし聴き手がピュアに耳に入って来る音からだけでも十分に楽しめるのなら、それ以外には余計な説明は一切要らないって事だ。これは演奏している側にとってみても、よっぽど嬉しい事なんじゃないのかな?。それをアルバム1枚楽しむ前に、先ずはバードの伝記から読んでみろだなんて、押し付けがましいったらありゃしない。全く以て本末転倒。呆れてものも云えなくなる。

 ただ、勿論『奇妙な果実』の様にアメリカ南部の黒人差別について何も知らないで、何も考えないで聴いていても決して理解出来ないだろう曲が存在するのは事実だし、レディ・デイ※(3)のその哀しみは、彼女の生い立ちを聞いていればこそ、更に人の胸を打つものであると云うことも理解する。

 けれども、それでも尚押しつけられるものではないと思うのだ。


 残念ながら、そんな困った?jazzマニアに何回か出会ってしまった僕は、何かとっても特別な体験をしているのだろうか?。いや、どうもこう云う御先達が多いのは、たまたまだよと、簡単には否定出来ない事実のような気がしてならないのだ。


★ ★


 そんなふうに思い、気難しそうなjazzファンから少し距離を置いている僕が、1月14日付け※(4)の産経新聞の総合欄に掲載されていた『クールな奴はジャズが好き』と言う記事を読んで、かなりグッと来てしまった。この記事はジャズファンには有名な通称「ジャズ・タクシー」の安西敏幸さんが過去に乗せられたジャズファン達にまつわる話の幾つかを紹介しているものだ。安西さんは過去にも同様の取材を受けておられるので、トランクに真空管を積んだこの特異なタクシーをご存じの方も多い事と思う。

 ここに取り上げられている安西さんの乗客=jazz好きたちの、なんとクールでストイックで、そして情熱的なことか。是非ともご紹介したく、産経新聞のWEB上に掲載されていればそのURLを記したかったのだが、残念ながら未だアップされない様なので、仕方なく拙文に引用させて頂く事とした。記者は「東京特派員」の湯浅博さんだ。

 -新宿では悪相の三人組が乗ってきた。助手席のチンピラが「音を消せ」と毒づいた。すると後ろの兄貴分が慇懃に「運転手さん、これはコルトレーンでしょ。音量を上げて下さい」と訂正した。「この曲は17分かかりますから、少し遠回りしてくださいな」と付け加えたものだ。

 ビシッっと三ぞろいで決めた検事が乗ってきて、ステレオを聴くなり豹変したことがあった。ネクタイを緩め、指を鳴らし、リズムに体をゆすった。車を降りるときには、またビシッと最初の検事バージョンに戻ったことが可笑しい。

 (中略)

 七十過ぎの紳士が、癌研究センターから退院するときは辛かった。どこで聞いたか、「ジャズ・タクシーで帰りたい」と予約を入れてきた。リクエストは、亡き人を偲ぶマル・ウォルドロンの「レフト・アローン」だった。
 哀愁おびたピアノの旋律がもの悲しい。横浜の自宅に着き、「いや、最高のライブでした」といわれたときに、思わず涙がこぼれた。息子さんから彼の死が伝えられたのは三週間後である。-



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 湯浅記者は続ける。

 -確かに人生いろいろ、悲喜こもごも。車中でプロポーズする若者があれば、死出の旅に出る人もいる。でもジャズを介して、みんなどこかつながっているような気がする-のだと。

 悪相の兄貴分はコルトレーンのこの曲の演奏時間が17分かかることをちゃんと知っていて、終わりまで聴けるように遠回りしてくれと云い、検事は車中で束の間の素顔に戻り、全てを忘れリズムに身を委ねる。七十過ぎの紳士は余命を知り「ひとり残されて」を聴きながら最期を迎える為に静かに家へ戻って行った。彼らの話は、みんなjazzのフィルターを通して共感出来るから、ホッとして、笑えて、そして悲しいのだ。


★ ★ ★


 音楽は一人で自己完結出来る愉しみではある。

 でも、同じ愉しみ、悦び、悲しさ、切なさを同一の音楽の上で誰かと共有出来るならば、それは更に素晴らしい事だと思う。そんなふうに思うから自分の好きな音楽を誰かに伝えたい。でも、それは決して自分の気持ちを押しつける事などなく。

 そう。そんなふうに思うから、僕はこんなブログを書いているんだ。


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 いつか安西さんのこのジャズ・タクシーに乗って、好きな音楽の話がたくさん聞けたなら楽しいだろうな。今日はどんな人が、どんな曲を、どんな思いで聴きながら、車は何処へと向かって走っているのだろう。




※(1) ・・・Gibson社のギターの品番。同じジャズ系向きギターでも335はフュージョンやロックにも対応可能。対してL-5はオーソドックスなボックス・ギターで、ジャズ・ギタリストの憧れの名器と云われています

※(2) ・・・ジャズ・ギターの神様的存在であるウエス・モンゴメリーの代表曲

※(3) ・・・ビリー・ホリディのこと

※(4) ・・・2005年1月に掲載された記事です

ジャズタクシー・安西さんのブログ
http://jazztaxi.cocolog-nifty.com/jazztaxi/
タグ:jazz
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TaekoLovesParis

yk2さん、こんばんは。
アイコンが「青かば」になる前は、このブルーのグラスでしたね。
ディープ・パープル、ギターがかっこよかった。Burn!
BlackNight、今じゃ缶コーヒー。それもまた All right, All right♪

Jazzタクシーのブログ、読んできました。
ずっと続けていらっしゃるんですね。
いろんな人生模様があるんだなぁと思いました。
私も乗ってみたいです。
by TaekoLovesParis (2008-10-31 22:46) 

pistacci

ブルーのアイコン、わたし、好きでした。
なぜでしょう、このブルーは都会的でちょっとクールなイメージ。
カラ~ン、という氷の音が聞こえそう。
jazzタクシーの話、素敵だなっておもいました。
(これがミュージカルタクシーだったら、こうはいかないかも。)
by pistacci (2008-10-31 23:51) 

pace

永くjazzを聴いてくると耳が腐ってきて
頭で聴くことも多くなる
そんな時はリセットリセット
都会も田舎もないし音楽はどこにでもあるし
ただ好きなのがこれなだけ
by pace (2008-11-01 01:28) 

Inatimy

この記事を読みながら、うん、うん、そう、そう、と、うなづく箇所がいろいろ。  
「SMOKE ON THE WATER」も好きだったし、「HIGHWAY STAR」も♪ 
でも、曲は知ってても、それがディープパープルというグループだったことも、そのメンバーが、これまたよく曲を聞いてたレインボーというグループにいたことも、それが、すごいドラムだと思ってたコージー・パウエルにつながってたということも、ついさっき、知ったばかり・・・。 
タイトルも、英語の歌詞も分からず、歌ってる人もよく知らなかったけれど、気に入ってた曲が私の中にはたくさんあります。 

by Inatimy (2008-11-01 09:02) 

怪鳥

おひさです。
音楽知識や思い入れの丈を語りたがるだけならまだしも、
それを他者に押し付けたがる人、たしかにいますね。
伝え方によっては微笑ましく感じるケースもありますが
大抵は不快を催すだけです(笑)
「JAZZ」を「ロック」や「クラシック」、その他音楽以外の事象に
置き換えてもそのまま通用しますね。
人間は一人一人違う、感じ方も人それぞれ、
こんな当たり前のことが何でわからないのかなぁ。
音楽系飲み屋の客には特によくいるんだよねー(^^;

by 怪鳥 (2008-11-03 15:56) 

julliez

どんな世界にも、こだわりの極みを求める愛好家がいるんですね。
それも愛なのでしょうが、ある意味タイヘンです。

「こんな事も分かってないヤツとは話す気にもならないんだよねー。」
って、もう相当語っていますけど・・・。と突っ込めない小心者の私です。
「なるほど~、勉強になります。」
って言わないと薀蓄は終わらないと云う事が最近分かりました。
偉大なる愛好家って後でネタにできるけど、居合わせている瞬間は自分自身の立ち位置が常に分からないので難儀な気分。

クールなヤツはワインもお好き・・でしょうかしら。(´-ω-`)


by julliez (2008-11-03 16:15) 

yk2

みなさま、ご訪問&コメント頂きありがとうございます。
このお話は初めて書いた時とは違う意味を持たせたく、今回再掲載してみました。ふとした個人的な思いつきで、随分と古いお話を皆さんにしてしまい、お付き合い下さったことに感謝致します。

ここでの「jazz」は、今回の掲載に関してはいろんな事柄の喩えの内の1つと考えて下されば結構です。難しく考えなくとも、何にでも当て嵌められる事かな、と。

◆taekoさま :

以前のアイコンはSo-netに引っ越しさせてから完璧に過疎化してしまった子blogのアイコンに使ってるんですよ(苦笑)。ここで使った写真は同じ時に撮ったものですが、飲み物の種類がちょっと違うのでした(笑)。

◆pistaさま :

実は最初にこのblogを書いた時、jazzタクシーの安西さんから直接コメントを頂いたのですが、湯浅記者の書かれた文章は実際カッコ良すぎです・・・なんてご謙遜されておられました。これがミュージカル・タクシーだったらって、一体タクシーの中で何が起きちゃうのでしょう?(爆笑)。

◆paceさま :

ご先達が、みんなpaceさんのような方たちばかりだったら有り難いのですが、頭でっかちになっているのに気付かず蘊蓄を撒き散らす事が誇りの様に思っている方たちも居られますので、そんな方達はご自分の現状にリセット掛けようなどとは夢にも思わないのではありますまいか。
julliezさんの書かれている通り、「勉強になります」と云いつつ適当に逃げるのが一番賢いのかも・・・(苦笑)。

◆Inatimyさま :

これまたハード・ロック史のお勉強のように並べましたね(笑)。レインボーとかパープルは僕等の同級生はみんな夢中になってましたよ。でも僕はその頃からTOTOとかAOR、Fusion系とかの音楽の方が好きだったなぁ。

>タイトルも、英語の歌詞も分からず、歌ってる人もよく知らなかったけれど

昔の曲はアレンジ云々よりも先ずメロディーがちゃんとしていないと売れなかったから、詞が解らなくても楽しめる楽曲が確かにいっぱいありましたね。僕もまだ10歳くらいの子供の頃耳にした、内容なんて知る由もないカーペンターズの曲のメロディに好きなものが幾つもありましたねぇ。

◆怪鳥さま :

そうでしょうねぇ、怪鳥さんは現場で遭遇する頻度が高い仕事なさってますものねぇ・・・(笑)。普段はそんな人じゃないのに、アルコール入ると変わる人もいますから、急に高圧的になったり押し付けがましくなる人もいますよね。僕は基本的に楽しいお酒が好きだから、特にそんな人達が苦手なんだと思うけど・・・(^^;。

文意はまさに怪鳥さんが書いて下さったとおりです。独り言で済ますつもりも、解って下さってる方がいると解って、ちょっと嬉しかったりして(笑)。

◆julliezさま :

ああ、ワインの世界は特に居るでしょうね。そんなのと絶対ワインバーのカウンターで隣になんてなりたくないよう(苦笑)。

>「こんな事も分かってないヤツとは話す気にもならないんだよねー。」

話す気にもならないんだよねー、って話したいワケね。聞きたくないなぁ~(^^;。julliezさんを見習って僕もサラリと逃げる術を身につけたいと思います。

by yk2 (2008-11-04 00:50) 

さき

はじめまして。
jazzが好きと検索していたら、
このブログに来ました。
最近好きになって、何も分かりません。
これからもブログ拝見させて下さいませ。
by さき (2015-04-01 18:50) 

yk2

◆さきさま:

ご訪問ありがとうございます。
古い記事にコメントを下さったお陰で、自分でも随分久し振りにこの話を読み返しました。
でも、最近はちっとも音楽関係のお話を書いてませんので、「jazz」を期待されちゃうと何だか申し訳なくって・・・です(^^;。
以前は音楽ネタだけ、サブ・ブログ(→http://la-musica-jazzpoino.blog.so-net.ne.jp/)で書いていたんですが、そちらももう6年くらい更新なしだし・・・(汗)。

少し反省して(苦笑)、たまにはjazzの話もしなくちゃ・・・ですね。懲りずにまた遊びに来て下さったら嬉しいです(^^。
by yk2 (2015-04-02 19:18) 

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