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大倉山記念館 [散歩道の景色]

大倉山駅.JPG

 東急東横線に大倉山と云う駅があります。横浜から渋谷に向かって6つ目、各駅電車しか停まらないこぢんまりとした駅です。僕はここからそう遠くないところにずっと住んでいるのですが、最寄り駅と云うわけでもないので、普段はほとんど立ち寄ることはありません。緑もそこそこに有って、住むにはとても好い街と云われている所なのですが、駅近くに近隣からも人が集まる様な大きなレジャー、商業施設などは何も在りませんから(大規模イヴェントやコンサート等が行われる横浜アリーナまで歩けないこともありませんが)、降りた事のない人にとっては少々地味な街との印象を持たれているやも知れません。

 ただ、ここの駅前商店街は昭和63年にギリシャ風を模したイメージで「大倉山エルム通り」として再開発されて全国的な注目を集めた事があるのです。




 当時は大型商業店舗の進出によって、昔からの商店街の衰退が顕著になり始めていた頃でした。ですから、ここの駅前商店街の一括リニューアルは地域活性化のモデル・ケースとされたのです。いきなりモトマチや自由が丘の様になるのは難しくとも、大倉山の駅前商店街が目指した方向性は手の届く範囲で参考になるかもしれないと、全国の商店街関係者が続々見学に訪れたものでした。駅前通りに沿う商店街の規模は実際はそう大きなものでなく、生活日常品を扱う個人商店が多くて、取り立て華美でもファッショナブルなものでもありませんが、リニューアルから20年近く経った今でも街並みはすっきりと綺麗に保たれていて、それなりに賑わっています。美味しそうなパン屋さん(→一例)が何軒か在ったりしてね(^^。

 しかし、何故あの時、唐突にギリシャ風にする必要があったのか、僕にはずっと謎でした。きっとなんの乱脈もなく、イメージ戦略だけだったんだろうな、なんて具合に思い、深くは考えもしなかったのですが・・・。


 実は大倉山にはTVドラマや雑誌グラビアなどに使われる、隠れた撮影の名所とも云われている場所があるのです。1つしかない改札口を出て、すぐ右手の坂道を駅のホームに沿うように登って行くと、約6~7分ほどで木々の多く茂る公園に出ます。その木立の奥に現れるのがこの建物。

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 これは横浜市大倉山記念館http://o-kurayama.jp/)と云って、街のシンボル的建築物なのです。そもそも、開業当初の駅名は地名から採られた“太尾(ふとお)”と云う名だったのですが、この建物に因んで後に大倉山と改められました。
 
 その昔に、ユーミンがアルバムのジャケット撮影に使ったこともあるんだよ、と彼女のファンである友人からも聞かされていたりして、ずっと以前からその存在は知っていたのですが、今まではあまり興味も無くって、1度も訪ねた事はありませんでした。

 でも、ここに来て、どうしてエルム通りがギリシャ風を模されたのか、ようやく納得。この記念館の外観がギリシャ神殿風だったから、街並みもそれに倣って揃えた分けなのですね。因みに「エルム」とはギリシャ語で商業の神の事なんですって。


大倉山記念館.JPG

 現在の大倉山記念館は、実業家で後に東洋大学学長も務めた大倉邦彦(1882-1971)によって「大倉精神研究所」の本館として1932(昭和7)年に建てられたもの。ここでは邦彦本人が所長となって、様々な分野においての研究者を集めて学術研究を行いました。また、精神文化に関する内外の書籍を集めて館内に附属図書館も開設するなど、学生・教育者・一般人などを対象とする精神教育の向上を目指したのだそうです。

 建築を担当したのは、多くの銀行建物の設計を手掛けた古典派建築の大家・長野宇平治(ながの・うへいじ)(1867-1937)で彼にとっては建築家人生の最後に手掛けた建物となり、その施工は竹中工務店が行いました。


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 記念館建物についての詳細はウェブサイトをご覧頂くとして、「東西文化の融合」を掲げた大倉邦彦の理想に深く共感した長野が、ギリシャ以前の”プレヘレニック様式”という世界的にも希少な建築様式を用いたのみならず、東洋の意匠も取り入れ、まさに東西文化が溶け合った独特の様式美を持つ建造物を創り上げたもの(記念館サイトより引用)なんですって。なるほど、この鳳凰のレリーフなどは如何にも東洋的に思えますものね。


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 内部も見学出来ます。入り口からすぐの玄関ホールは高い吹き抜けの天井。


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 正方形の4辺全てにライオンと鷲の彫刻が飾られています。

 現在残されている建物はこの記念館だけですが、大倉邦彦が東急の五島慶太より買い受けた土地は7500坪(後に1万坪)に及ぶ広大なもの。かつてはこの敷地内に研究員の住宅、利用者の宿泊施設、邦彦の宿舎、太尾村の村社たる神宮、弓道場や茶寮が設けられ、1つの完結した世界を構想したものだったんですって。当時のパンフレットが残されていて、それには「庭は日本並びに東洋の地図を象って居ります。敷地全体九千坪の土地は世界を意味し、建物は個人を表はして居ります。かくして日本と個人と世界とは三位一体である意味を表はすものであります」とその建設精神が語られているのだとか。(横浜市大倉山記念館見学用資料ページより)

 これを読んで、TVの「美の巨人たち」で昨年見たアルケ=スナンの王立製塩所の話を思い出しました。まるであの18世紀フランスの建築家、クロード・ニコラ・ルドゥーが目指した理想都市構想みたいだなぁ、と。

 なお、土地の取得も含めて総てにかかった費用は約70万円。その内建物の建設費が約46万円で、現在の通貨価値に換算すれば驚くなかれ、およそ数十億円にも達する額(!)。将来的に果実となって回収が期待出来る産業に対する投資なら兎も角、これってあくまで精神や思想など人文分野の研究をする施設ですから、要は目に見える形で利益として還元されることが一番期待出来ない部分。その財力にも驚かされますが、人を育てることが正しく美しい社会を形成する道と信じ、それにひたすら邁進するのには、余程崇高な理念を持っていなければ決してやり遂げられないこと。なかなか真似出来るものではありません。昔の人にはすごい人物が居たものですね。


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 こちらは大学なんかで云うところの講堂みたいなホールの入り口。


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 中は天井と太くて立派な木柱が特徴的。おそらく収容人数60~80人くらいであろう小さなホールですが、ちゃんとステージがあってグランドピアノが置いてあります。ここではクラシックのコンサートなどが定期的に催されているそう。 


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 戦後、研究所の自主運営は難しいものとなり、一時はその豊富な蔵書量(県内では横浜市立図書館に次ぐ規模)が評価され、国立国会図書館の支部図書館(昭和25-35年)として運用されていた時期もありました。ちょうど戦後の復興期。ここは勉強に来るたくさんの学生さんたちで溢れていたんですって。

 その後時を経て、昭和56(1981)年に横浜市に寄贈され、建物保存の為の大規模改修を経て、昭和59(1984)年に大倉山記念館として生まれ変わり、平成3(1991)年には横浜市の指定有形文化財に指定され現在に至っています。




 さて、僕がこの場所に来るようになったのには或る理由が有ってのこと。本当はそのお話をしたくて書き始めたつもりだったのですが、僕も初めて知った大倉山記念館のあれこれを並べていたら、随分と長いものになってしまいました。我ながら今回は引用した説明文ばっかりみたいな記事だなぁ(苦笑・・・^^;)。

 この続きはまた改めて。次回は大倉家と『吾輩は猫である』とオールド・ノリタケの関連についてご紹介してみたいと思います。それと、ここにはかなり大きな梅林があるんですよ。丁度時季ですからね(^^。

タグ:横浜
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コメント 10

TaekoLovesParis

東横線の駅は、渋谷からいくつ目という言い方しかないと思っていたので、横浜から数えるのに、「あ~そうなのね」と、まず思いました。私と友達だったら、「大倉山って、武蔵小杉の先、日吉よりもうちょっと先」
って言うのが普通だったから。
東横線は、通学に使ったので、なじみのある電車。

大倉山記念館、立派な建物。堂々たる「アカデミックの殿堂」ですね。
総工費、っていう言葉も浮かびますが。
列柱はギリシア風だけど、鳳凰のレリーフ、シビ(東大寺や唐招提寺など昔のお寺の屋根の角についてる魚の模様ふうの飾り)が堂々と正面、さらに2階部分をも飾ってるんですね。

玄関ホールの吹き抜けは、パリのギメ東洋美術館の吹き抜けにも通じるものがあります。装飾のところが、ね。今、その記事、書きかけで。
講堂みたいなホールの入り口は、アラブっぽさもありますね。太いお寺にあるような丸柱。まさにヘレニズム。
おもしろかったです。

最後の写真、図書館部分は、1932年当時の大学の作りですね。

次回は、梅の写真でしょうか。
by TaekoLovesParis (2009-03-02 22:24) 

yk2

taekoねーさん、こんばんは。

渋谷から幾つ目って、横浜の人はそんなふーにゃあんまり云いませんてば(笑)。ねーさんみたいに都内の人の基準はやっぱり渋谷になるでしょうが。

大倉山記念館、なかなか立派でしょ?。70年くらい前の建築物って風格有りますよね。丁度同じ頃の物で東京都中央郵便局は壊す壊さないで揉めてるみたいだけど、古い建物には特有の雰囲気がありますよね。壊すのは簡単だけど、なんとか上手く利用する手はないのかなぁと考えちゃいます。そこへ行くとパリやフィレンツェなんか、ねぇ(笑)。

ギメ美術館、いまビデオのHDの中身確認してみたら、昨年行われた金比羅さんの展覧会のヤツ録画してありました。行ったことないから、吹き抜けがどうなってるか映ってたらチェックしてみます(^^;。

>最後の写真、図書館部分は、1932年当時の大学の作りですね。

ウチの学校の図書館もかなり古かったハズですが、建物の造りがぜーんぜん思い出せません。>いかに利用してなかった=勉強してなかったかがバレますね(苦笑)。

>次回は、梅の写真でしょうか。

記事より桜が先に咲くと困るので、さっさと書くようにいたしまふ・・・(^^;。

by yk2 (2009-03-03 00:11) 

Inatimy

エルムって、そういう意味だったのか・・・映画「エルム街の悪夢」のイメージがあったので意外で。
鳳凰のレリーフあたり、素敵ですね。 思わず、落雁のお菓子を思い出しました♪
私が通った大学の図書館は、校倉造りを取り入れたもので、その建物を見学に来る大型バスまで来てましたよ。
by Inatimy (2009-03-03 22:51) 

hatsu

大倉山に行ったことは一度なのですが、
通勤が東横線だったので、懐かしいです^^
戦後は学生さん達がいっぱいで、賑やかな場所だったんですね。
駅から6~7分ですか、行ってみたくなりました♪
by hatsu (2009-03-04 13:23) 

pace

お久しぶりです
またよろしくね
by pace (2009-03-06 00:50) 

yk2

みなさま、ご訪問ありがとうございます

◆Inatimyさん :

はは、そうなんですよね。エルム通りだなんて、大抵の人はあの映画を思い出しちゃいますよね。それにしてもレリーフで落雁って・・・(笑)。すっかり食いしんぼキャラ定着?(^^。

大学の図書館が校倉造りでバス見学が来る、ってすごいですね~。きっと名のある建築家の由緒ある作なのでしょう。そうそう、そう云えばね、お正月に見た浅井慎平さんがチェコ建築を尋ねる番組にも出て来たんですけど、チェコの建築家は日本にもやって来ていて、大学校舎で素晴らしい建物を残しているようですよ。
興味がお有りでしたら見てみてね→http://homepage2.nifty.com/twcu-raymond/reference/essay_kanematsu.html

◆hatsuさま :

あらま、東横線が通勤線だったのですね。それこそどこかですれ違っていたかもね~(^^。

大倉山記念館へは、もっと暖かくなったらhatsuさんE-520持ってお散歩に好いかも、です。僕はね、あれから一眼まだ買ってなくて(優柔不断で機種を選びきれないのです・・・苦笑)、仕方無く代わりに広角で撮れるコンデジ1台買い足しちゃいました(^^;。

◆paceさま :

おひさしぶりです、おかえりなさい。こちらこそ、またよろしくです(^^。

by yk2 (2009-03-14 10:23) 

バニラ

大倉山記念館、なかなか行けずにいるところのひとつです。
内部を見るのは初めてなので 興味津津~♪
歴史も知れて 勉強になりました。
by バニラ (2009-03-14 23:02) 

yk2

バニラさん、こんばんは。

大倉山記念館になかなか行く機会が無い!と云うのは、ずっと僕もそうでしたよ。あの建物だけを見にって、考えてもイマイチ動機として弱い気がしちゃって(^^;。
ただね、記念館の裏手の梅林公園は街中すぐにある公園としてはなかなかのもの。今年は丁度見頃が終わってしまったばかりなので、随分と気の長い話になりますが、来年梅の花の季節にでもお出掛けになってみては如何でしょうか。
by yk2 (2009-03-17 00:31) 

バニラ

それはniceな?アドバイス♪  忘れないようにしておかなければ~
by バニラ (2009-03-22 09:49) 

yk2

ふふふ、バニラさんは今でも時折はChaponへ食事に行かれているのですね。あちらでのコメント、taekoさんだけ特別だと・・・には爆笑してしまいました。いくらtaekoねーさんでも、さすがにそこまでの女王様体質ではないと思われます(笑)。あの写真のお皿に本数がたくさんなのは、今はまだ細いのしか入荷してないから、ですね。それにね、そもそもホワイト・アスパラは1本から食べたい分だけ本数指定でオーダー出来るんですよ(^^。
by yk2 (2009-03-22 23:16) 

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