アンリ・リヴィエールみたいに撮れたらいいのに [ART]
今回掲載しましたお話は、昨年の10月に葉山の神奈川県立近代美術館でアンリ・リヴィエール展を観た日のことです。今頃になってどうしてまた1年も前の・・・ってトコ(^^;なんですが、ちょっと思うところあって、途中で書くのを止めてしまっていたものに、今回、改めて写真を足して加筆し、展覧会鑑賞記ではなく、葉山での海岸逍遥の話として書き換えました。さしたる内容ではございませんが、ご笑覧頂けましたら幸いです。
(2009年10月11日)
数日前に台風が吹き荒れたのが嘘の様によく晴れた週末、神奈川近代美術館・葉山へフランスの浮世絵師と呼ばれた画家・版画家のアンリ・リヴィエール(1864-1951)の展覧会(それも、今回が世界でも初だと云う回顧展)を観に行った。パリ生まれのこの芸術家は、日本の浮世絵、中でも葛飾北斎に多大なる影響を受け、彼へのオマージュを、エッフェル塔を富士に見立ててパリの情景を描いた版画集・『エッフェル塔三十六景』(1902)として出版したことで知られている。その内の数枚が、現在、世田谷美術館で開催されているオルセー美術館展 / “パリのアール・ヌーヴォー”(※11月29日まで)にも展示されているので、彼の版画をご覧になって来たばかりだと云う方も居られることだろう。
◆アンリ・リヴィエール / 〈エッフェル塔三十六景〉 カラー・リトグラフ
Les Trente-six vues de la Tour Eiffel (1888-1902)
左、『パッシー河岸より』
右、『塔の上部で』
左、『ベートーヴェン街より』
右、『コンフェランス河岸より』 全てニューオータニ美術館蔵
※ 尚、本頁の写真画像は、クリックすることで全て別ウインドウにて拡大画像がご覧頂けます。
生まれた街であるパリを描く一方で、リヴィエールは海の情景もまた、大いに得意としていた。ゴッホがアルルに浮世絵の明るい光を求めた様に、まだ文明社会に侵されていないブルターニュの海岸に、未だ見ぬ遠い日本を重ね合わせていたのだ。それらの作品を、海と隣り合わせのこの素晴らしいロケーションの葉山の美術館で見られるのだから、嬉しいに決まってる(^^。作品と展覧会場がこれほどピッタリ似合ってハマってしまうってのも、そうそう無いよね。
そんなことで、今回の展覧会ですっかりリヴィエールの描いた海に魅せられてしまった僕は、県立近代美術館を出る頃には海の写真を撮る気満々(笑)。勿論、海以外のエッフェル塔のシリーズも興味深く素敵だったけど、今回はやっぱり場所が場所だったからねぇ~(^^。
ところで、以前にも何かの機会で書いたかも知れないけど、僕は絵に描くのも写真も風景が大の苦手で、どうも上手く撮れないんだよねぇ・・・。せっかく葉山に来ているのだから、僕にもリヴィエールの描いた海のような写真が撮れたら嬉しいんだけどなぁ。
美術館を出て、ほんの少し逗子駅方面へ戻ったところの、いつもの小さな路地から砂浜へと降りる。敢えて今回リンクは付けない(^^;けど、くるぶし上まであるサイドゴア・ブーツが完全に冠水してしまった時と同じ砂浜です、と申せば、ああ、あの時の、と笑って思い出して下さる方も居られるやもしれません(苦笑)。
台風の直後だけあって、波打ち際には打ち上げられた海藻類でいっぱいだった。すごい風だったものね。この海岸通りの海に面した家の幾つかでも、ガラスが割れたりする被害が出ていたみたいだ。水浸しになってしまったのか(?)家具を家の外へ運び出している所もあった。海のすぐお隣で、まったく羨ましい限りの暮らしだけど、台風の時は大変だし、やっぱり怖い思いもするんだろうね。
◆アンリ・リヴィエール / 〈美(うま)し国ブルターニュ〉 『ドゥアルヌネの港』 (1911)
リトグラフ 県立ブルターニュ博物館蔵
上の写真はこの絵を意識して写したワケじゃなかったんだけど、図録から選んで画像の横幅を揃えたら偶然にも同じ様な構図。それなのに、どうして僕の風景写真はこうも魅力が無いんだろう・・・(苦笑)。
こちらは水面に映える光を意識して撮ってみたんだけど・・・
もっとじっくり構図を考えるべきなんだなぁ・・・と反省している2枚の写真。雲からこぼれる太陽の光線ばかりに気を取られて、岩場のシルエットをちゃんと見られていなかったし、結局のところ海が撮りたいのか、空(光)が撮りたいのか中途半端なんだなぁ。この2枚を合わせたような光景、太陽があって、雲から差す光のラインが見えて、岩場のシルエットが版画みたいに効果的で・・・って写真が撮りたかったのに(T.T)。バシャバシャと何枚も無数にシャッターを切るんじゃなく、撮ったものをコマ確認する習慣をつけないと、風景は上手くなれないんだろうなぁ。
◆左、アンリ・リヴィエール / 〈美(うま)し国ブルターニュ〉 『ランメリュスでの月の明かり』 (1900)
リトグラフ フランス国立図書館蔵
◆右、アンリ・リヴィエール / 〈時の魔術〉 『上弦の月』 (1901)
リトグラフ 県立ブルターニュ博物館蔵
理想は、左の『ランメリュスでの月の明かり』なんだけど、どうにもムズカシイですな(^^;。要は撮るべきもの、撮らないでよいものの取捨選択が出来てない、ってコトなんですよね。ま、ジャスト・タイミングを気長に待つこともなく、あまり深く考えずにパッと思いついて、その場ですぐにシャッターを押してしまうスタイルでは、こんなふうに一筋の月光がまっすぐに海面を照らす、素晴らしい「瞬間」にはなかなか出会えないのも確かだけれど。
お次は岩場にて。
◆アンリ・リヴィエール / 〈北西の風たち〉 『少年水夫たち』 (1906)
リトグラフ 県立ブルターニュ博物館蔵
船の停泊している風景。
◆アンリ・リヴィエール / 〈美(うま)し国ブルターニュ〉 『トレブルへの帰船』 (1906)
リトグラフ フランス国立図書館蔵
この絵は、僕にはどうしてなんだか、江戸時代の神奈川湊に見えてしまって面白い。入り江の対岸が開国前の横浜村ね。マストの向こう奥が今の山手で、フランス山公園があの辺りかな・・・なーんて(笑)。
夕陽(オレンジ色)の効果。
さっきから、徐々に空の低い位置に暗い色した雲が広がって来てしまった。どうか夕立など降りませんように・・・。
(※僕の写真は実際には16時前後くらいに撮影したものなので、実はまだそんなに夕暮れ時でもなかったりしますが(^^ゞ。)
◆アンリ・リヴィエール / 〈時の魔術〉 『風』 (1901)
リトグラフ 県立ブルターニュ博物館蔵
最後の1枚は、ヨットの走る風景を、先ず初めにこの絵在りきで撮ってみた。
◆アンリ・リヴィエール / 〈自然の様相〉 『夜の海』 (1897)
リトグラフ フランス国立図書館蔵
今回の展覧会のポスターに採用されていた『夜の海』。刷りの具合のせいだろうか、夜にしては明るい海の光景で、タイトルを知るまではまるで夜だと思ってませんでした(汗)。よくよく見れば星も出てるし・・・(^^;。画面右端から画角に突然入り込んで来たかのような小舟の構図は、まさに広重や北斎の版画の世界だなぁ。あまりにハマリ過ぎてベタなんだけど、葉山で観るからこそ、魅力倍増。本当に素敵な絵だったなぁ。リヴィエールの作品中で、僕はこの絵が一番に好き。
そんなんで、及ぶ可くも無いけど(^^;僕もヨットのいる光景を。
海岸沿いをずっと歩いてやって来た森戸海岸(※撮影したのは森戸神社の奥)も、もうそろそろ日が暮れる時刻。
僕は、ここら辺りに、明治のお雇い外国人医師で、葉山にも縁があり、かつ日本美術のコレクターとしても知られるエルヴィン・フォン・ベルツの記念碑が在ると聞いて、それを探しに来たのだけど、どうやらここは有名な夕陽撮影スポットでもあるらしく、太陽が海に沈み行く瞬間を狙って、三脚を立てて待機しているカメラマンでいっぱいだった(ちと吃驚)。みんなこうして、じっくり時間掛けて構図を練り、光線の具合を計算して、お気に入りの1枚を撮影するんだなぁ。
本当の写真好きな人たちと僕なんかとでは、やっぱり基本的な姿勢からして違うんだ。身の程知らずにも、アンリ・リヴィエールの版画の様な風景写真が撮りたいだなんて云ってしまって、相当、おこがましかったかもね・・・(^^ゞ。
タグ:葉山 アンリ・リヴィエール
2010-09-03 02:00
nice!(10)
コメント(9)
トラックバック(0)
覚えてますよ、ブーツの冠水事件☆あぁぁ、素敵なブーツが、って思ったので。
この記事を読んで、もう何年も行ってないんだけど、海に行きたいなぁって思いました。
リヴィエールの描く海岸が日本の海と同じなので、おもしろいですね。
モネなどがよく描いたエトルタみたいなところばかりかと思うと、そうでもないのね。
夕方の雲間からの日差しの写真、こういう瞬間、大好きです。
ふっと天使でもいるかな、なんて、ね(笑)この瞬間が撮れただけでもなかなかだと思います。
月光は・・・版画だから?っていう解釈は、夢がないかな。
by pistacci (2010-09-03 21:14)
9月になってもまだ日中35度、明日は36度の予報。こんな日々に海の絵や写真は目に涼しく爽快です。
2年前いっしょに行った「パリの100年展」で、エッフェル塔工事の写真の中に、いかにも「ただいま作業中」という人目をひく写真があって、「見て、見て!」と言ったら、「それ、アンリ・リヴィエールだよ。本当は画家で、、」と説明してもらって、覚えた名前なんですよ。上のエッフェル塔36景の「塔の上部で」は、カラー版画なので、温かみがあって、私が見たモノクロの写真と、ちょっと趣が違うけど、構図がいいですねー。
散歩記事だから、景色のことにコメントしないとー(笑)
リヴィエールの海の絵からは、澄んだ空気、凛とした寒さが伝わってくるけれど、
葉山の海の写真からは、もわっと湿気があるのが伝わってくる。海の色や岩の形、水平線の位置など、やはり、日本の海とブルターニュの海は、違うと思う。
でも、こうやって、比較するのは、おもしろいアイディアですね。リヴィエールの絵
という目標設定がすばらしいです。がんばってください。
by TaekoLovesParis (2010-09-03 21:51)
yk2さんの花の写真は、いつもいいなーと思って見てます。
「7月の花」もよかったです。
海の景色写真は、男性的ですね。力強さがあります。
お手本のリヴィエールの絵のほうは、やさしい感じがします。
by micky (2010-09-03 22:08)
アンリ・リヴィエールさん、恥ずかしながら知りませんでした。
エッフェル塔を富士山に見立てての情景とは
なんとも興味深いです。作品を実際に見てみたくなりました(*^^*)
yk2さんのお写真はどれも素敵ですが、その中でも船の停泊
している風景がとても好きです♡ yk2さんのように写真を撮れたら
楽しいでしょうね~(^^♪
素敵なお写真を拝見させていただき有難うございました♪
by chercher (2010-09-04 23:33)
葉山の風景の写真を、版画の風景絵と対比させてこうして記事にアップするなんて、yk2さん、ただ者ではありませんね(笑)。
リビエールも葉山も知りませんので何ともコメントできかねますが、私の周りには到底yk2さんの様な芸術的センスあふれた男は皆無です。
by aranjues (2010-09-05 22:10)
コメント&niceありがとうございます。
いい加減もう云いたくないけど、いつまでも延々暑いですねぇ・・・。
最近クルマのエアコンさえ熱でヘンになって来たのか、時々、短い間ですけど急に暖風が出るんですよ~・・・運転しながら「きぃ~っ!」とか叫んで、顔をしかめつつハンドル握りながら泣きそうになってます(苦笑)。本格的に故障しませんよーに。。。
◆pistaさん :
ブーツ冠水事件、今読み返しても情けなくて・・・(苦笑)。まぁ、長い人生、あれしきのコトの1度や2度は、誰だって、ねぇ。でも、2度目はやっぱりご免被りたいですけど(^^;。
リヴィエールの描いたブルターニュの海があまりにも日本の海の光景と似ているのは、やっぱり日本の版画の技法を生真面目に研究した成果でしょうねぇ。今回のブルターニュ・シリーズは全てリトグラフなので、木版刷りよりはムラもなく西洋印刷的に仕上がってるハズなんだけど、どう見ても、すごく日本的ですよねぇ。
夕陽の写真、天使がいたなら好いけど、僕のこの写真には降りて来てくれてないみたい・・・(苦笑)。
月光の照らし具合は、確かに絵だから幾らでも自由になるでしょう。リヴィエールがどれほど写実に拘って版画を制作していたのかは、僕もあんまり調べてないんですが、エッフェル塔のシリーズなどは彼自身が写真に撮った光景がベースになってるんですよ。だから、その点北斎みたいに自由奔放な絵ではないのかもしれませんね。
◆taekoねーさん :
明日もまた予報は35度以上の猛暑みたいですね。もうイヤです(T.T)。
こうなると、海の青ささえも暑苦しい、って感じですよ。横浜港辺りの海見てても、ちっとも目になんて涼しくないです(苦笑)。水に入れない限りはダメですね~(^^;。
アンリ・リヴィエールはお世辞にも著名な画家じゃないので、知らなくてもムリはないですよ~。僕だってあの時代のアール・ヌーヴォーとジャポニスムの関連に興味がなければ、今でも知らなかったと思います。
そもそも今回彼の話を書いたのは、某パリ特派員さん用にどんな絵描きさんだったか、少し情報をあげようと思って(笑)。
リヴィエールの写真は、建設中のエッフェル塔の上部で撮られていて、結構迫力が有りましたね。この展覧会の時も版画と一緒に幾つか展示されてました。
>でも、こうやって、比較するのは、おもしろいアイディアですね
ふふふ、いなちゃんにパリで三十六景分撮ってみて~、ってハナシ振ってみようと思って(爆)。
◆mickyさん :
花の写真、誉めて下さってありがとうございます。mickyさんだけです、そんなコトおっしゃって下さるのは(笑)。七月の花の時はハスもヤブカンゾウも花のコンディションがイマイチで綺麗に撮れなかったから・・・。海の写真が男性的なのは、葉山が結構ゴツゴツした岩場の海だから、でしょうかね。この辺りの神奈川の海は砂が白くないから、確かに女性的ではないかもしれません。
by yk2 (2010-09-06 23:39)
◆chercherさん :
知らなくって恥ずかしい、なんて画家じゃ全然ないのでへーきですよ~(^^。
これでchercherさんに「恥ずかしながら」なんて云われてしまわれたら、デスピオゥを教えて頂いた僕だってそう云わなくっちゃ(笑)。そう云えばね、先日東京駅すぐそばのブリヂストン美術館へ行ったんですが、常設にデスピオゥが1点展示されていて、ああ、chercherさんが教えて下さった作家だ!と、とっさに思い出して喜んでしまいました。初めて作品観られた~って、ね(^^。
◆aranjuesさん :
版画の描かれた場所の今昔を比較するって、展覧会なんかでは結構ベタな手法ですから、僕が特別なセンスしてるわけじゃーないです(笑)。上でもちょっと触れてますが、Inatimyさんがパリのショーウィンドゥで本を見つけました、って書いてたから、それならば、と書いてみたんですよ。地味と云えば地味な人なので、僕も実際下書き記事をお蔵入りさせてたくらいですから。
あらん先生が葉山をご存じないのは少し意外ですが、皇室主治医も務め日本医学の基礎を築いたと云われるベルツ博士が別荘を葉山に持ったことから、ベルツの友人だった建築家のジョサイア・コンドルが有栖川宮邸を設計するなど、以降葉山に皇族の別荘が次々出来るきっかけとなった、って話があるんですよ。鎌倉と近いので、神奈川県民にとっては身近なドライヴ・ルートなんです。路線バスも通るくせに、すれ違いも大変なくらい道が狭いのが困りものなんですが・・・(^^;。
by yk2 (2010-09-07 00:16)
なるほど、こういう画家さんだったんですね。 日本じゃないの?と思うような海の風景ですよね。
エッフェル塔は、この角度だとパッシーからかな、と思ったら、やっぱりタイトルにありましたね。 ふふ。
でも読み進めていって、もしかしたら、これらの塔の同じ角度から写真を撮るように、
暗黙のプレッシャーをかけられてる?なんて思い始め、
最後、コメント欄で・・・あ、やっぱり(笑)。
無理ですよ~、私、リヴィエールみたいには撮れませんからね~っ!
で、冠水したブーツは、まだ現役かしら・・・?
by Inatimy (2010-09-08 22:31)
◆いなち・み~さん :
そうです、こういう画家さんだったんですよ~(^^。
日本ではアンリ・リヴィエール単独の画集は刊行されていないみたいで、今回の展覧会図録が唯一まとめて彼の画業が一覧できる本なので、何らかの形で少しでも見せてあげたくってね~。ほら、やっぱりどうしたって、パリで三十六景分撮るのにサンプルは必要でしょうから(うひひ)。
まぁ、それは冗談にしても、リヴィエールとは別の、いなちゃんオリジナル目線でのパリ三十六景(多分それはかなりニッチでヘンテコリンな~♪・・・笑)が見られたら、それはそれで楽しそうでいいなぁ、とは思ってます。
冠水したブーツ、もちろん今も現役だよ~。あの時、直後にちゃんと手入れもしたから塩水のダメージはそんなに残りませんでした。イギリスの靴はね、直してずっと長く履けるから好きなんだ。
by yk2 (2010-09-09 23:14)