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オルセー美術館展、パリのアール・ヌーヴォー@世田谷美術館 [ART]

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 出掛ける前にも記事にして散々騒いでいたのだから、感じた事はどうであれ、やはりこの展覧会を観てのことは書き残しておこう。半分は嬉しくもあり、残り半分は残念でもありだった、世田谷美術館のオルセー美術館展・「パリのアールヌーヴォー」で思ったこと。



 一番最初から直截に述べてしまえば、「オルセー展」と銘打って華々しく開催するには、展示作品数が少なすぎたと思う。首都圏でオルセー展と冠された展覧会は、最近では2007年の東京都美術館で開催された「19世紀・芸術家たちの楽園」が行われているが、それを観た僕の記憶は未だ鮮明なままだ。それ故に、今回の世田谷美術館にも或る程度の質量を期待してしまっていた。それも、アールヌーヴォーと特化することで、印象派絵画ばかりに傾倒しがちな日本でのオルセー人気に一石を投じ、浮世絵や工芸品などの日本文化とも縁浅からぬこの装飾芸術の魅力について、どんなふうに、どこまで掘り下げて紹介してくれるのか、僕は本当に、心からわくわくしながら、この展覧会を観るのを楽しみにしていたのだ。

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 ところが現実は、展示室の壁面はスカスカの隙間だらけ。観ているそばから、何だかうら寂しい気持ちが湧いてくるほどだった。ポスターや資料的な写真でも良いから、ここは何かで埋められなかったのかなぁ・・・と。

 もし、予算の問題など有ってオルセーからこれ以上は借り受けられなかったとしても、もう少し、国内の美術館から協力を得て、展示点数を増やせなかったのだろうか。それと云うのも、やはり我々日本人にも馴染みが有り、フランスのアールヌーヴォーの代名詞的存在とも云えるのエミール・ガレのガラス作品が1点も無いのは、どうしたって淋しい。実際、絵画やポスターなどでは国内美術館からも借用、協力を得ているので、基よりこの展覧会の展示作品がすべてオルセー所蔵の作品と云うわけではないのだ。ここに、国内美術館所蔵のガレのガラスが数点混在していたとしても、差して大きな問題とは成らなかっただろうに。もうあと5作品、いや3作品でもガレなりドームなり、もちろんティファニーでも構わない、華やかなガラス作品が彩りを足してくれれば、この展覧会全体の印象も大分違っていただろうに・・・。


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 そして、ついでにもう1つ生意気を云わせて貰えば、折角借りた大事な作品の見せ方も、あまり感心出来たものではなかった。アール・ヌーヴォーは建物から内装、ドア、階段、手すり、天井から床に至るまでの生活空間の全てを彩った装飾美術。だから、実際に使われていた様に家具を部屋(ダイニング)に見立ててレイアウトするのは悪くないアイディアだ。


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 でも、それをするなら、トータルのコーディネイトは多少なりとも気を遣って構成して欲しい。世田谷美術館は区立。国立西洋美術館や東京都美術館と較べるのは酷だし、予算は確かに大変だろうけど、果たしてあの床材やビニールの観葉植物をディスプレイすると云うチョイスは、豪華な花の装飾のあのダイニング家具に対して、選べる範囲内で最善のものだったのだろうか?。いや、そもそもフェイクの植物など置く必要が有ったのだったのだろうか?。残念ながら、これではまるで安っぽいマンションのモデルルームみたいじゃないか。

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 産業革命の時代、アール・ヌーヴォーの作家たちが何故、「自然」をモティーフに求めたのか。それを思うと、この「フェイク」を使用した安っぽい演出(少なくとも、アーティスティックでないことは誰の目にも明らかだ)は、どうにも皮肉な結果をもたらしているとしか思えてならない。このディスプレイが“21世紀のジャポニスム”なのだとしたら、19世紀末のフランス人たちは、果たして素敵だと感じて受け容れてくれるのだろうか?。



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 ルネ・ラリック作の『罌粟のピン』をパリのオルセー美術館で観た時の感動は今も忘れられない。これこそ、まさに“宝飾品”。スポットの照明に照らされ、まばゆくきらきらと輝いていたあの美しさと云ったら例えようが無かった。

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 その時と同じピンが、今回はグレーの安っぽいベロア地の飾り台に置かれて、不思議なことに差して輝いても見えずに、漠然とケースに収まっていた。


 この不景気なご時世。もっと展示にお金を掛けろだなんて、間違っても云わない。でも、ちょっとした工夫や演出の仕方次第で、鑑賞者に与える印象は大きく変えられるはずなのだ。

 これらほどの素晴らしい美術品でさえも、くすんで、まるで価値のないような物に見えたりもしてしまうものだと、この日は改めて気が付かせられた。素材さえ良ければ、どんな物でも常に美しく見える、と云うワケでもないんだね。

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