モンテーニュ通りのカフェ [映画・DVD]
今から少し前の話題になるけれど、エコールド・パリの画家、モディリアーニが制作した彫像が、パリで行われたクリスティーズのオークションにて、なんと48億円もの高額で落札されたと云うニュースがあった。
http://www.afpbb.com/article/life-culture/culture-arts/2736125/5879512
これは、モディリアーニの絵画を含めた全作品に付けられた値段の中で、過去最高値。
そもそも、今回の落札予想価格も400~600万ユーロ(約4億5000万~6億7000万円)程度だと思われていたそうだが、結果としてクリスティーズさえ思いも寄らなかっただろう高値がつけられてしまったわけだ。これにはきっと、モディ自身も吃驚だったろうなぁ。絵じゃなくって彫刻に?、って。
このニュースを読んで僕が思い出したのは、2006年に制作されたフランス映画の「モンテーニュ通りのカフェ」(原題:Fauteuils d'orchestre)。
一応の主人公は、セシル・ドゥ・フランスが演ずる若い女の子、失恋してパリへ出て来たジェシカ。
だけど、物語は彼女以外の複数の登場人物にもそれぞれスポットが当たり、フランス映画お得意の群像劇として、ストーリーは多面的に展開してゆく。
僕がこの映画に惹かれたのは、シナリオに必要不可欠なアイテムとして、幾つもの著名作家による美術作品の数々が散りばめられているからでもある。
ごく簡単に筋を説明してしまうと、登場人物の一人ジャック(クロード・ブラッスール)が、一代で成功して財を成し蒐集した美術品たちが、いつの間にか生まれてしまった親子の心の隔絶に因って、父から息子フレデリック(クリストファー・トンプソン)へと受け渡されることなく、今まさにオークションで処分されようとしているのだ。
そこで、美術品たちの中でも最重要ポジションを任されているのが、モディリアーニの芸術家仲間であり、彼に彫刻を手ほどきしたブランクーシの『接吻』と云う彫刻作品で、僕は数年前に上野で行われたフィラデルフィア美術館展でこれと同じものを実際観てもいる。
オークションを控えた会場に並べられた美術品たちを背にして、未だその所有者であるジャックは呟く。
「私はこれらを売ることは出来る。でも、二度と手に入れることは出来ないんだ」と。
父の集めた美術品などにまるで興味の無かった息子は、オークションの当日までの数日、父と交わした何気ない会話の中で、その『接吻』が父と亡き母にとって、そして自分を含めた家族にとって、絶対に手放してはならない、かけがえのない物なのだと気付いてゆく。しかし、時は既に遅く、『接吻』はオークションの壇上に載せられしまうのだ。
ネタばらしにならない様に、あまり詳しく書く必要も無いだろうと、敢えて細かい部分までは調べ直すさずに書いたので、セリフなんかは全くこのままではないだろうけど、大体はこんな感じのストーリー。
まぁ、カフェに集う人々を描いた群像劇なので、これとは別に他の話も平行して進むのですが、フランス映画で同じく美術品や遺産の相続をテーマとして取り上げた「夏時間の庭」や「サンジャックへの道」と見比べるのも面白いでしょう。あの2作も、家族や、取り巻く登場人物たちが皆主役と云っても差し支えない様な映画でしたから。
それはそうと、モディの彫像を48億円で売った売り主さんは予想を遙かに上回るお金を手に入れて喜んだのでしょうか。
それとも、事の後、2度とあの彫像を手に入れられないのだと気付いて、淋しさを感じたでしょうか。
このお話ももし映画にするのなら、後者じゃないと、シナリオとしては締まらないよねぇ・・・(^^;。
『モンテーニュ通りのカフェ』
『夏時間の庭』
『サン・ジャックへの道』
「モンテーニュ通りのカフェ」と「夏時間の庭」は、2作とも、美術作品が重要なキーポイントになってる映画でしたね。特に「夏時間、、」は、オルセー美術館の開館20周年記念でたくさんの作品が貸し出されてて、見どころ満載。
「サンジャックへの道」は、わかりやすい人物設定での人間模様が面白かったです。巡礼という特定の環境の中にはいった人たちの、それぞれが、エゴ丸出しで滑稽でしたね。その様子をさらっと高みの見物的に描くのが、フランス映画のしゃれたところですね。
by TaekoLovesParis (2010-07-20 00:34)
「夏時間の庭」へのコメントです。
外、夏の庭でのシーンが、綺麗な映画でしたね。
緑が生い茂り、夏の光が降り注ぐ、広い庭のお屋敷が、とても素敵でした。お庭で大人数で食事のシーンが、楽しそうで、自然と人が調和している光景に思えました。絵のようでした。お庭の花を選んで摘んで、花瓶にさしたりも、素敵な生活です。木々が育ち、森のようになった庭を駆け巡る青春まっただ中の孫たちという最後のシーンは、じんと来ました。見ながら、この屋敷は、なくなるのかしらと、ふと、世代交代の寂しさを感じました。
by micky (2010-07-20 13:52)
◆mickyさん :
ご訪問&コメントありがとうございます。
うふふ、映画もタイトルに「庭」と付くと、見ておられるんですね、mickyさん(笑)。
あの映画は、一番自由奔放で“困ったちゃん”みたいに見せられていた孫娘ちゃんが、最後の最後に、夏の間にいつも訪れた、思い出のおばあちゃんの家を失ってしまう事を悲しむシーンで終わるのは、ある種の「救い」でしたね。時代も、人の暮らしも、物に対する思いも、全てがやがては移ろっていってしまうけど、人が大切な人を思う気持ちだけは変わらないんだ、ってエンディングですから。
◆taekoねーさん :
『夏時間の庭』は、恵比寿で去年の夏に見て、もう1年経ったからそろそろ美術品がらみで記事にしてみたいなぁと思ってるトコです。でも、相変わらずブランクモンのガラスの手掛かりがないまま・・・(T.T)。
『サンジャックへの道』は、フランス映画としては判りやすい内容でしたね。最後の最後に、まさか、全ては被相続人のお母さんに仕組まれていたとは・・・ってオチも愉快でしたし(^^。
>さらっと高みの見物的に描くのが、フランス映画のしゃれたところ
フランス映画って、意見の提示はあっても、とどのつまりはこうだ!って型にはめ込まない所が押しつけがましくなくて、僕は好きです。『夏時間』も、兄弟3人の気持ちを描いていながら、結局、何が正解なのかなんて、結論付けませんものね。観る人がそれぞれ自由に考えてね、って。
by yk2 (2010-07-22 00:19)
今日、行ってきました、モンテーニュ通り。 現地調査員として、すぐさま行動。
近いうちに・・・記事にできればいいなぁ。
すっごい通りでビックリしましたよ・・・お買いもの通りだったんですねぇ。
『夏時間の庭』の村もパリからなら近そうだけれど、いつかもっと言葉ができてからにしよう・・・へへ。
『サンジャックへの道』は・・・どうか、勘弁してください(笑)。
by Inatimy (2010-07-25 06:07)
いなっぴー@パリ“特派員”さま、忙しいのにコメントありがとー(^^/。
調査員って、それじゃまるで保険会社の自動車事故担当か浮気調査みたいじゃん(笑)。
モンテーニュ通り、行って来られましたか。
僕はまだ20代の頃、初めてパリに行った時にはシャンゼリゼとかジョルジュ・サンクの高級お買い物通りも歩いてみたけれど、到底縁のないところだったなぁ(笑)。洋服や靴は大好きだけど、いわゆるセレブ御用達の有名ブランドには今も昔も全く興味が湧かないし。
いなちゃんは、ひょっとして、映画の舞台のカフェでお茶でも飲んできた?(笑)。
>『サンジャックへの道』は・・・どうか、勘弁してください(笑)。
ふふふ、ホタテの貝殻付いたリュック、日本から送ってあげよか~?(爆)。
by yk2 (2010-07-25 07:33)